気づけばいつも、強い光は敵ではなくて
※圧倒的に凛の出番の方が多いです。
憧れ、恋い焦がれた夏は静かに終わりを迎える。
間もなく訪れる秋はどんな色をしているのか、なんて毎年のことながら考えてしまう。
やけに感傷的になっているなと自分を嘲笑った。
静まり返ったプールサイドに迅と凛はいた。
並んだまま静寂のみが過ぎていく。
「用があんだろ。さっさと言えよ」
痺れを切らした催促に迅はため息をついた。
地に穴をあけてしまいそうな重いため息だった。
「あのさ、松岡くん」
部活中は『先輩』と呼んでいる彼を『くん』で呼ぶ。
それは普段の距離。学校の時間から距離を埋める呼び方。
「だから、さっさと言えって言ってんだろ。それだけ口にしねえってことは、言いにくい話か。迅、何言い出す気だよ」
なかなか本題を切り出せない迅を警戒したのか、凛は薄い壁を作った。
警戒されるとさらに言葉は出てこない。
こういう場合は先に世間話でもするべきか。
「松岡くん。オレ、今日はタイム良か――」
「まあ、いつもよりはマシな泳ぎ方だったんじゃねぇか?」
先に言われた。見ていてくれたことはうれしく思うが、今は悲しい。
話が瞬間的に終わってしまった。
他に何を話せばいいのか、脳はかつてない速度で回転しているのだが、テンパっているためかすべてが無意味だった。
「わざわざ遠回りすんなよ。本題を言えばいいだろ」
「……確かに」
「なら、さっさと言え。どんな内容でもとりあえずは聞いてやるよ」
彼にとっては面倒な内容も受け止めてくれる。
頼りになる先輩だ。
意を決してその言葉を放り投げる。
「オレ、江ちゃんが好きなんだ」
一瞬の沈黙。それはまるで永遠。
凛の顔を見るのが怖い。
今すぐダッシュで逃げ出したい。
今なら過去最高の瞬発力を見せられる気がする。
あまりにもわかりやすい現実逃避にため息をついた。
永遠とも思える沈黙は凛の声によって終わりを迎えた。
「それは、付き合ってますって報告か?」
「え? ま、まさか。まだ告白もしてないって」
「……」
「だって、お兄さんである松岡くんに先に報告するべきかなって……」
長い沈黙だった。
確かに身内に先に告白するとかおかしな話だ。
無意識のうちに予行練習にしてしまったのだろうか。
それだと凛に失礼だ。
「ごめ――」
「まあ、当然だな」
「……はい?」
「江は性格もいいし可愛いから、好きになるとか当たり前だろ。ちゃんと俺に言うあたり他の奴らよりマシか」
「……シスコン?」
「んなわけあるか。妹を大事にするのは兄として当然だろ」
「はぁ……」
妹想いというより、シスコンに見えるのだが、今は言わないのが正解だろう。
「わかった」
ニッと笑った凛が鋭い歯を見せる。
これはどういう意味なんだと迅は頭を悩ませる。
「行って来いよ、迅」
「え?」
「さっさと告白してこい」
「今から!?」
「江にメールしとくから」
そのまま携帯を取り出す。
止める間もなくさらっと送信されてしまった。
「松岡くん!」
「お前ならきっと江を大事にしてくれる」
「……」
こんなところで泣くべきではないのに、じわりと涙腺が緩む。
「松岡く――お兄さん」
「とりあえず、プールで溺れてくるか?」
この冗談は通じないらしい。
「ありがとう……って言うべきなのかな」
「さあな」
「どんな結果になっても、必ず報告するよ」
「その必要はねえよ」
「何で!?」
「……わかってるからな」
小さすぎる呟きは迅に届かなかった。
「行ってきます!」
「おう。盛大にフラれとけ」
「松岡くん!!」
随分と賑やかな見送りだった。
***
「江ちゃん!」
「迅くん!?」
制服姿の彼女に駆けよれば、江は驚いた顔で迅を迎えた。
「迅くん、どうしたの? 話があるって聞いたんだけど……」
「えっと……。勢いって大事じゃない?」
「何の話かわからないけど、大事だと思うよ?」
迅は二度深呼吸をした。
心臓が飛び出してしまいそうなほどに暴れまわっている。
「好き、なんだ」
「……水泳が? それなら知ってるけど」
そんなボケはいらないと肩を落とす。
さすがに江もそれは冗談だったらしく、軽く笑ってごめんと謝った。
「オレ、江ちゃんのこと、好き」
聞き逃さないで、そう祈るようにゆっくり言葉を切って伝えた。
風の音がよく聞こえる。
それ以上に聞こえるのは自分の心音なのだが。
「……えと」
歯切れの悪い言葉が聞こえた。
それが意味するところ、つまり……。
「ごめん。いきなりこんなこと言われても困るよな。だって……」
「迅くん!」
否定の言葉を聞きたくなくて、必死に並べ立てた陳腐な音は、彼女のたった一言で切られてしまった。
「……何?」
「ちゃんと聞いてよ。好きって気持ち」
「それって……」
「まあ、いっか」
「何が……」
にっこりと笑った彼女の顔があまりにも綺麗に見えて、思わず追及することをやめてしまった迅。
けれど、彼らのその先が見えるのは、すぐそこの未来。
気づけばいつも、強い光は敵ではなくて
(2014/09/10)
※実は『海はいつだって君の傍にいて』と同じ世界観……というか、設定です。
※なので、似たような構成にしてます。
※実は夢主は↑夢主の弟です。
※中編くらいで書きたかったかも(笑)
※ちなみにタイトルは凛のことです。江夢なのに、タイトル凛(笑)
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