しんしん





「さようなら」
そんなことばすら、君はくれなかった。 









仕事帰りの街並み。もうクリスマスなんだな。どこもかしこも明るい光が包んでいる。
彼女がこの街を去って、一年近くが経つんだ。毎日が忙しすぎてそんなことにも気付かなかった。いや、忙しい気がしたのかもしれない。
ふと見上げると大きなクリスマスツリー。去年のクリスマスなら二人、このツリーを見ていた。ちょうど本物の雪が積もってきれいだったっけ。

「やばっ、早く帰らなきゃ」

ツリーに見とれている場合じゃなかった。腕時計を見てから家路を急いだ。

何がどうなったのか、自分も気付いていなかったんだろう。
“この街を出る”彼女はそうとだけ言って、いなくなった。理由も聞けなかったな。せめて「さようなら」とか「別れよう」とか言ってくれたら、楽だったのに。

帰り道、そんな何気ないものですら君の影がちらついて、消えてはくれない。
理由がないっていうのは結構ツライものだ。改善もできないじゃないか。そういえば彼女は結構無責任な子だったっけ。それでも一緒にいることがうれしくてしかたなかった。
家について、冷えた部屋を暖める。ひとまず少し明るい電灯をつけて。着替えてふと外を見た。

「あ、雪・・・・」

今年初だな。去年に比べて早い。何を急いでいるんだろう。
寒い。けれど、その景色がきれいで、目をはなせなくて。ついついベランダに出る。

「うっわ・・・さむっ!」

息が白い。雪が白い。冬だなぁ〜・・・なんてまたしみじみしてしまう。
・・・・・どうして雪の降る音を“しんしん”なんてたとえたのか、疑問に思う。昔の人の言葉遊びだろうか。もちろんそんなこと知らないし、わかるはずもない。だけども、やっぱり今の雪にはぴったりだ。

痛みは深い。
傷付いていないフリはできないから、別のことに夢中になろうとした。だから必死に仕事をして、時が経つのも忘れるほど・・・。
けれど君との毎日があまりに日常に溶け込みすぎていて、何を見ても感じ取ってしまう。その事実を見て見ぬふりしながら。
徐々に輝く街が白に染まっていく。明日の朝には真っ白な世界が目のまえに広がるだろうか。

「・・・・・」

なんだか雪に想いが吸いとられていく、そんな気がした。やがて、雪に包まれる。しんしんと降る雪に、今抱えているこんな気持ちと共に。けど、全てが飲み込まれてしまうまえに。

「ありがとう。さようなら・・・・」

愛する苦しみも、そして喜びも教えてくれた愛しき人。君が言ってくれなかった言葉は僕が言おう。
きっとまた、誰かを愛することができる。きっと、踏み出せる。

そして暖かな部屋の中へ。
外はまだ、あの時と同じ、雪がしんしんと降り積もる。
僕の心と想い出を包み込んでいくように・・・・。


(冷たい雪は手のひらの中で静かに解けた)

(君と出逢って人を愛する苦しさを 喜びを知りました)


********
曲を聴いててつい書きたくなった。
ずーゆーのリーダーが、「クリスマスと言えば別れだろうと思って作った」なんてことをおっしゃってたのに引っかかって。明るいクリスマス曲も作ってるのに ^ ^ ;
でも確かにクリスマスって幸せなだけじゃないと思うので、こういうのもありなのかな?
機会があったらぜひ聴きながら読んでみてくださいませ。

song by yuzu


08/12/8 up










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