LOVE LETTER
きみの姿が、どんどん大人に変わっていく。
その話を聞いたのはちょうど1週間くらいまえ。人伝にまわってきたうわさだった。ショックを、うわさはうわさだと決め付けて必死に耐えていたけどやっぱりウソではなかったらしい。
高校の3年間、私は彼に片想いをし続けていた。きっかけは自分で作った曲をほめてもらったこと。今まで1度だってほめてもらったことはなかったから。うれしくて、うれしくて。
――――歌、うまいんだね。びっくりした
そう言ってくれたことを今でもはっきりと覚えてる。その時からクラスでも話をするようになって、いつの間にか惹かれていたんだ。
彼は私なんかよりもずっと頭が良くて、しっかり物事を考えられる人だった。人望も厚くていつも周りには友だちがいて。そんな人の友だちになれただけでもすごいことだったかもしれない。
そんな彼がもうすぐ都会に出て働き始める。そう、聞いたのだ。
「・・・・結局、言えないままだったなぁ」
自分でもどうしたらいいのかわからなくなっていた。きっとこれから先、しばらくは逢えないだろうなってことは私にもわかるけど。
彼に逢えなくなることは淋しいと言うか悲しくて仕方ないのは事実。だけど彼の決めた事実に私が入り込むところなんてひとつもない。「行かないで」なんて言えるわけないじゃない。
「だからって、このままでいいの?」
自問自答、を初めてした。どうしたらいいのかはわからない。けど、今の私にできることは一つ。私と彼をつないでいるたった一つのもの。
私は部屋のすみのギターに手をのばした。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「じゃ、お世話になりました」
「時々は顔見せに帰ってくるのよ」
そんな声が聞こえる。明日のまえに会わなければ。
そう思って彼の家に行ったけれども出てきたのは彼のお母さん。名乗ってどこに行ったのかを尋ねたら、ここにきていると教えてくれた。そしてやっぱりここにきていたのだ。
「は、速水くんっ!」
そう呼ばれた彼は振り向く。少し驚いたようにしていたけど、すぐに笑顔になる。
「あれ、どうしたの?よくここがわかったね」
「い、家の人に・・・聞いて」
走ってきたせいで息がなかなか整わない。早く、早く言いたいことがあるのに。そう思えば思うほど息はなかなか元に戻らない。緊張もあって心臓がバクバク言っている。
「あ、あのね・・・・明日、行っちゃうでしょ?それでこれを届けにきたの・・・」
「これ?」
そういって差し出した小さな包み。中にはMDが入っている。
二人をつないでるのはきっと歌だ。だってあの時もそうだったのだから。私は必死に彼あての曲を仕上げた。言葉で言うほどの勇気はない。だからせめて音に乗せて。直球じゃないけど、少しでもそう感じ取ってくれたなら。
「あ、あの行きの電車の中ででも暇つぶしになればいいなって思って。う、うまくはないんだけど・・・」
「・・・・・・」
受け取ってはくれたけど、なにも言わない彼に緊張と不安が積もっていく。この間が息苦しい。やっぱりこんなことしたら迷惑だったかな?
なにかを言わなきゃいけないけど、言葉なんて最初から見つかるはずもなく。ただ相手の言葉を待つばかりなのです。
「じゃあ、俺からはこれ」
「え?」
そう言って差し出された白い紙。わけがわからないけどとりあえず受け取る。
「3年間一緒だったのに全然交換しなかったでしょ?コレを気に交換しておこうと思って」
二つに折られた紙を開くと、彼の携帯のアドレスが。そういえば仮にも3年友だちとして接していたのに、交換してなかった・・・と思う反面、これを自分がいただいていいものかと戸惑う。(いや、友だちなら別にあっておかしいことではないのだが)
「えぇ?い、いいの?私、もらっちゃっても」
「あ、迷惑だった?」
「そんなことないけど。私の歌の方が迷惑じゃない?」
「そんなことないよ。相模さんの歌、大好きだし」
大好き・・・・。自分のことじゃないのに自分のことみたいにうれしくて涙が出そうになる。どうしよう・・・・私、きっと真っ赤になってるよね。現実なんだろうか?なんだか夢を見ているみたいだ。
「相模さん?大丈夫?もう遅いから送っていくけど?」
・・・・・本当に夢じゃないんだろうか?
そうして次の日、彼は行ってしまった。たくさんの友人に見送られて。私はなにも話せなかったけど、もらった紙をずっと握りしめて彼の乗る電車をじっと見つめていた。
あなたは私の知らないところで大人になってゆくの。だけど心だけはあの頃と同じなのね。
私はきっとあなたを忘れられない。だから好きでいさせてください。伝えられなかった想いを口に出せるようになるまで・・・・。
LOVE LETTER
(伝えたいきもちはいつでもそこに)
(何回も 何回も 書き直した手紙は まだ僕のポケットの中)
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続きを書きたかったのですが、長くなるのでここでカットしました(汗)
song by noriyuki makihara
08/10/29 up
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