忘れ咲き





あれからずいぶんと月日が流れました。
あなたは今、どうしているのでしょうか?





「え?転校・・・・?」

少し沈んだ表情の幼なじみから聞かされたのは、信じたくない事実だった。
幼稚園のころから一緒。もっと言えば生まれた時から。だからはなれるなんてことを考えたことがなかった。
これから中学や高校に行って、大学も行くかもしれなくて、仕事をするようになってもずっと一緒だって思っていたのに。

「・・・・っやだよ!」

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「・・・・・・っ」

ぱっと目を開けると、見慣れた白い天井が見えた。どうやら夢を見ていたらしい。ずいぶんと昔の夢だけど。
ベッドから起き上がり、時計を見ると時間は朝の6時。休みだと言うのにだいぶ早く起きたものだ。しかも久しぶりに。また寝直す気にもなれなくて、私は着替えを始めた。
なにもすることがないし、散歩でもしよう。まだ朝早いし、人は少ないだろうから。そして余裕があれば久しぶりに外で朝食をとって。うん、めずらしく有意義な1日が送れそうな朝だ。
そう考えながら軽いバックに財布を入れて、玄関に鍵をかけた。

特にあてもない。気のむくままというか、導かれるままに。

「・・・あ」

気付けば思い出がたくさんつまったあの川原。そんなこと、全く考えてなかったのに。・・・・あんな夢を見たあとだからだろうか。だから彼との思い出の場所にきてしまったのだろうか。

あの日。転校すると聞かされてから1週間経った日。旅立つ彼とさよならをする私の上には雨が降っていた。
私と同い年、小学生だった彼は泣きたそうにしていたけれど必死にこらえていたように思う。そして「さよなら。またね」なんて言ったうしろ姿が大人に思えて。
なにも言えなかった。私はそれでも信じられなくて、傘に隠れて泣いていた。

「またね」と言ってくれた彼とはあれから一度も会っていない。転校した先は知っていた。小学生からしたらものすごく遠く感じられたその町とこの町の距離も今はそんなでもない。
けれど今その近くに住んでいるとは限らないし、それに会いに行くことを考えたことがなかった。あれだけ涙のお別れをして、すぐにでも会いたいと思っていたのに薄情だとは思う。それでも会いに行けないのは、怖いからかもしれない。

好きだったから。大好きではなれたくなくて、どうしようもなくて。あの時私たちは小学生だったけど、はっきりと言える。
恋とか愛とか知っているはずもなかったけれど。“好き”ってだけで、笑っていられたんだ。

今、あなたはどこにいるのでしょう。こんな時間だからまだ寝ているでしょうか?それとも誰か、大切な人と一緒にいるでしょうか?
私は元気でやっています。できれば、あなたも元気でいますよう。あの日とは違う、青空の下で祈っています。

そう伝えて。私はまた歩き出す。あのころと同じ、時に身を任せて・・・・・・。



(川原は今でも想い出の輝き)


(巡りあえた 景色をそっと 消えぬように とどめてゆく)


********
ほとんど独白ですね。
最初は“昔”がメインで“今”はおまけ的な感じだったのですが、このほうが書きやすかったので。
G.ARNE.T C.ROW 、大好きなんです。

song by garnet crow


08/8/28 up










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