ナデシコが咲いたら | ナノ

06


「や、やっぱ無理!無理だって!」
「はぁ?ここまで来といて何言ってんだよぃ。」
「だ、だからやっぱり無理なの!」
「じゃあお前、これ食べねぇの?」
「う、それは嫌だ・・・。」
「じゃ、早く入れよ。」
「やっぱ無理だってー!そ、そうだ!私図書室で待ってるよ!」
「日曜日なんだから図書室空いてるわけねぇだろ。」
「そこはほら、図書委員の権力を使って・・・。」
「委員長でも何でもない平委員がんなこと出来るわけねぇだろ。」
「じゃ、じゃあ適当にどこかで・・・。」
「終わった後に探したり合流したり面倒だから却下。ほら、早く行けよ。」
「わ、ちょ、背中押さないでよ!」
「どうでも良いが、入口を塞がないでくれないか?」
「「わあ!」」

突然後ろから声をかけられ思わず私もブン太も声をあげ後ろを振り返ると、そこには柳君と幸村君が立っていた。

「ど、どうも、こんにちはすみません。」

自分でも何を言っているのかよく分からないけれど、とりあえず挨拶と謝罪の言葉を述べ私はテニス部の部室の入口からサッと身を除けた。
すると柳君にあぁこんにちはと笑いながら頭を撫でられた。相変わらず柳君の手は大きいなぁ。

「えっと、永井さん、だっけ?」
「は、はい!」

柳君との挨拶に和んでる場合じゃ無かった・・・!
ガチリ、と体を強張らせながら名前を呼ばれた幸村君の方を向く。
怒られる、絶対怒られる。だって完全部外者の私が、テニス部のそれもレギュラー専用の部室の前に立って、よりによって通せんぼのごとく入口を塞いでいたんだもの・・・!

「良かったら部活が終わるまで、そこのベンチに座って見ていてくれないか?」
「・・・え?」

幸村君の言葉に私は思わずぽかんと口が開いてそれは間抜けな顔になった。
・・・え?何、どういう意味?

「嫌かな?」
「え、いや、嫌とかじゃ全然無くて、え、えぇ!?」
「じゃあ、宜しく頼むよ。」
「あ、はい。へ!?」

何だか全然分からないが、幸村君の突然の提案に乗せられた私は、気がつけばテニスコートが一番良く見渡せるベンチにひとりポツンと座っていた。
・・・何がどうしてこうなった。

「あれ、永井?」

名前の呼ばれた方を振り向けば、遠くにジャッカルと赤也の姿があった。赤也はえ、瑞穂先輩!?と私のいる方を確認すると、大きく手を振りながらこっちまでやって来た。

「先輩、本当に来てくれたんすね!」
「あの様子だと来ないと思ってたぜ。」
「うん、私もせめて他の場所で待ってるつもりだったんだけど・・・。」
「けど?なんすか?」
「いや、幸村君に、良かったらここに座って見ててくれって。」

言われてしまったものでね・・・。そう言って苦笑いをすれば、赤也とジャッカルは少し驚いたようにこっちを見て、あの幸村部長が?珍しいなぁと言葉を零した。

「でも、私まだ真田君に会ってないんですよ・・・ど、どうしよう!怒られる!」
「ま、それなら大丈夫じゃないか?幸村が良いって言ったんだろ?」
「そうだけど・・・。」
「平気ッスよ!真田副部長は確かに怖いけど、幸村部長には頭上がらないッスから!ハハッ!」
「何がそんなに可笑しいのだ?赤也。」

とても低い独特の響きのある声に、私も赤也も思わず動きがビシッと止まる。こ、この声って・・・

「何か言いたいことがあるのなら言ってみろ。ん?」

さ、真田君・・・!

「な、何でも無いッス!ジャ、ジャッカル先輩、早く着替えてアップしましょう!」
「お、おう。」
「(赤也逃げたな・・・!!!)」

一目散に部室へと入っていった二人を呪うように睨みながら、私は背中から汗がにじみ出るのが良く分かった。
だ、だって、真田君が!目の前に!それも二人きり!
気まずいというかもう無理帰りたい誰か助けて・・・!
だけど周りにはそんな救世主になってくれそうな人はひとりも居らず、私はただただ顔を上げられずに膝の上に置いた手をジッと見ていた。

「・・・。」
「・・・。」

どうしよう、沈黙にこのままだと殺されてしまいそうなんですが・・・。

「・・・。」
「・・・。」

こ、こうなったら、何か私から話を切り出すしか・・・




「「あの!」」





うわぁ声が重なったー!

「な、何、真田君?」
「い、いや、お前の方こそ、何だ?」
「いや、私はそんな大したことではないので・・・。」
「いや、俺こそ・・・。」
「「・・・。」」

再び沈黙へ逆戻り!?そ、それは嫌だ。

「あ、あの!」

意を決した私は勢いあまってベンチから立ち上がって真田君の方を真っ直ぐ見た。
真田君は少しビクッとしたが、あ、あぁ何だ?と言って腕を組んだ。

「その、前に突然無礼なことをお尋ねしたりして、本当にすみませんでした。」

そう言って頭をぺこりと下げる。すると、真田君は少し驚いて間を空けた後、いや構わないと返事をし、

「俺の方こそ、突然怒鳴ったりしてすまなかった。」

そう付け加え、私に向かって頭を下げた。

「いやいや、あれはいきなりあんな事を聞いた私がいけないのであって、真田君は何も・・・!」
「いや、すまなかった。良く考えればお前も被害者だったのにな。」
「いやいやいや、って、ん?」

被害者?
なんでそんな言葉が出てくるんだ・・・?

「被害者って・・・?」
「ん?何、お前は仁王や丸井達の遊びに乗せられてあんな事を尋ねてきたのだろう?」
「・・・え?」

一瞬自分の耳を疑った。
だって、え、どういう事?何で私が、仁王やブン太達の遊びに乗せられただなんてことになってるの?




・・・はぁ?




「あのね、真田君。」
「何だ?」

真田君がそう言って私の方を向いたその瞬間、私はその左頬に向かって思い切り腕を振り下ろした。
パシーン、と乾いた音がコートへ響くと、先ほどまで雑音で溢れかえっていたコートは水を打ったかのように静かになっていた。

「遊びだとか、そんな風に勝手に決め付けないで。」

右手がじんじんと痺れていたが、そんなこと今の私には関係なかった。

「私はあの時、真剣に、真田君に恋をしていたの。いきなり不躾な質問したことは謝るけど、そんな遊びで質問されたとか、そんな風に思われるのは不本意だよ。」

シーン、と静まり返る辺り。その空気に私は次の瞬間ハッと我に帰った。
な、なんて事をしているんだ私・・・!

「あ、あの、そそそその、ごめんなさい・・・!」

明日から私、村八分決定だ!なんたって立海テニス部の副部長の皇帝こと真田君にビンタ食らわせてしまったんだもの・・・!!
さようなら私!

「・・・ふ、ふふふ、」
「(・・・ん?ふふふ?)」
「あっはははは!」
「!?」

急に横の方から笑い声が聞こえて、私は下を向いていた顔をチラリと横に向けた。
すると、お腹を抱えて大笑いする幸村君と、笑いをこらえるように口に手を当てた柳君が立っていた。

「いや、笑ってすまないね。とても面白いものを見れたから。」
「あ、いや、その本当にごめんなさい申し訳ありません!」
「そんな頭を下げないで。君は間違ったことなんて何もしてないんだから。」
「・・・え?」

そう言うと幸村君はゆったりとこちらへと歩いてきて、そして真田君の前、つまり私の横に立つと真田、と凛とした声で呼んだ。

「な、何だ、幸村。」
「君がそういう性格なのは俺も知っている。恋愛に関して何時の時代の人だよってくらいとても疎いことも。」
「う、うむ。」

・・・なんだか幸村君、今さらりとものすごいこと言ったよね?あ、気にしちゃいけなかったかな。

「だけど、永井さんに対してのあの言葉。あれはやっぱり真田が悪いと思うよ。勝手に遊びだなんて決め付けたりしたらいけない。」
「そ、そうか・・・。」

真田君が一言そう呟くと、幸村君の方を見ていた視線をこちらへと寄越し、すまなかったと言って頭を下げた。

「ええ、そんな!いいい良いんですそんなことして下さらないで!私こそ突然ビンタなんかして本当にすみませんでした・・・!」
「いや、構わない。おかげで目が覚めた。」

そう言ってフッと笑う真田君は、今まで見たことのある笑顔とは全然違って、とても年相応の素敵な笑顔だった。

「さ、練習始めようか。永井さん、良かったら応援してね。」
「う、うん、もちろん!」

じゃあ、みんなコートに入って!幸村君の号令で、バラバラに散らばっていた部員達がコートへと入っていく。
途中私の横を通って行ったブン太と仁王は、それはそれは万遍の笑みだった。





(20101002)

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