ナデシコが咲いたら | ナノ

05


「ケーキセットでバナナのタルトと、ロイヤルミルクティーで。」
「ミルクティーはコールドとホット、どちらになさいますか?」
「ホットで。君は?」
「あ、じゃあ俺もケーキセットで、ベリーのタルトとカフェラテのホットで。」
「かしこまりました。」

少々お待ち下さい、と言ってキッチンへと戻っていく店員さんを少し見送った後、私は前を向き直った。すると前にいた彼はずっとこちらを見ていたのだろか、ばっちりと目が合った。

「ん?何?」

何か言いたげな表情をしていたのでテーブルに置いてある水を飲みながら尋ねる。すると彼はいや、あの、ともごもごと口ごもる。

「あの店員さんに惚れたとか?」
「な、ちがっ!」
「わ、危な、」

ものすごく動揺したのか、彼は自分の手元にあったグラスを思い切り倒しそうになった。が、慌てて両手で掴み、ふうと深い息をひとつついた。

「そんなに慌てなくても・・・。」
「冗談でも変なこと言わないで下さい・・・。」

そう言って彼がもうひとつため息を吐くと、先程の店員さんが注文したケーキセットを運んできてくれた。

「で?」
「え?」

視線を彼に寄越しながら、バナナのタルトを口に運ぶ。あぁやっぱここのタルトは美味しい。

「だから、何が言いたいの?」

まだ手がつけられてない彼のベリーのタルトをチラリと見る。あぁあっちも美味しそう・・・帰りに買って帰ろうかな。

「・・・何で、」
「ん?」
「何で俺を誘ったんですか?て言うか、何で俺は初対面のあなたとこうやって向かい合って仲良くケーキを食べてるんですか?」
「何でって、私が誘ったから。」

あ、あのさそのベリーのタルト、一口だけもらっても良い?と我慢できなくなり思わず尋ねると、あぁ別に良いですよと彼がケーキの乗ったお皿を前に出した。

「って、そうじゃなくて!」
「もう、さっきから何?」
「いや、だから何で見ず知らずの俺を誘ってケーキ食べてるんですか?普通おかしいじゃないですか?」
「え、別に私君のこと見ず知らずなんかじゃないよ。」

そう答えると、彼は目を大きく開き、それはもう大層驚いた顔をした。

「だって君、このお店の前に何回も来て中を覗いては帰ってたでしょ?」

彼のベリーのタルトに盛大にフォークを刺しながら話すと彼はこれでもかってくらい目を大きく見開いて口をパクパクさせた。
あ、やっぱりベリーのタルト美味しい。よし、帰りにお持ち帰り決定。

「な、な、なんでそれを・・・!」
「なんでって、私もこのお店好きで良く通ってるから。」

あ、タルトありがとうと彼の目の前にお皿を戻すと、彼は耳の先まで真っ赤になった顔を両手で塞いでいた。
・・・なんか可愛いなぁ。

「・・・そんなに可笑しいですか。」
「あ、いやいやそうじゃなくて。」

彼の反応がなんとも初々しくて可愛いな、と思わず微笑んでいたら、笑われているのと勘違いしたのか彼がちょっと睨むようにこちらを見てきた。もちろん、まだ耳は真っ赤なままなので全然怖くなんかないんだけれどね。

「なんか可愛いなぁって思って。そういう反応する子、周りにいないから。」
「ーーー!!」

本当に素直にそう感じたから言ったのに、また顔をさらに真っ赤にさせた彼にからかうのはやめてください!と怒られてしまった。
ごめんごめん、と慌てて誤りながら、まあこれでも食べてよと私のバナナタルトを彼の前に差し出す。するとまだ少しムスッとした表情で小さく頂きます、と言ってフォークにちょこんと刺したタルトを口に運んだ。
・・・やっぱり可愛いな。

「甘いもの、好きなんだ。」
「・・・やっぱり可笑しいですか?」
「ん?なんで可笑しいの?」
「だって、男で甘い物好きって・・・普通いなく無いじゃないですか。」
「え、そう?全然いるよ。」

そう返せば彼は少しえ?と驚きと嬉しさの混じった瞳でこちらを見てきた。
いやいや、男で甘いもの好きなんて沢山いるでしょ。
ブン太とか、ブン太とか、あとブン太とか。

「だ、だって、この見た目ですよ?」
「見た目?」

そう言って彼の全身を改めて見直す。
明るい髪の短髪に、少し日に焼けた肌。頬には何か怪我でもしたのだろうか、かすり傷のようなものがあった。体つきも結構しっかりとしてるから見た目はいかにも自分スポーツしてます!体育会系です!って感じではある。

「体育会系だと、甘いもの好きは駄目なの?やっぱり肉ッスよね!みたいなのじゃないと駄目なの?」
「いや、別にそんな決まりは無いとは思いますけど・・・。」
「じゃあ、良いじゃん。」

他に何処を気にする必要があるの?そう言ってミルクティーを口に運べば、彼は一瞬ぽかんとした表情を浮かべた後、フハッと笑い出した。

「ん?何?」
「いや、何でも無いです。」

そう言いながら今まで少しずつしか食べていなかったタルトを一気に食べると、やっぱりここの美味しいですねと笑った。

「あ、そうだ。」
「ん?」

すっかりケーキも食べ終わり、お土産のケーキをお互い手にぶら下げ他愛もない話をしながら駅まで着くと、私は彼に番号教えてよとポケットから携帯を取り出した。

「あ、それ仁王と同じ機種だ。」
「仁王?」
「ううん何でもない。赤外線ある?」
「あ、はい。」

そう言ってお互いの携帯を向かい合わせにすれば、アドレス受信中というメッセージが画面に出てはすぐに消えた。

「ありがとう。えっと私のは・・・っと、電車来ちゃった。私のは後でメールで送るね。」
「あ、はい。」
「それじゃ、また。」
「はい、また。」

お互い電車は逆方向だったみたいで、先に私の目的方面の電車がやって来た。仕方なく乗り込むと、くるりとホームを振り返る。すると彼はまだこちら側を見ていたらしく、手を振れば小さく笑って振り返してくれた。

「不二裕太君、か。」

携帯に新しく登録されたアドレスを眺めながら、私はさっそく彼にメールを1通送った。
気になってるけど入れないお店とかあったら、誘ってね。私も今度お気に入りに連れて行ってあげるから。

「送信、と。」

すると数分と経たないうちに彼から是非という返信が来て、私は思わず笑ってしまった。
うん、彼もこれから甘いもの同盟に仲間入りだな。
役職は・・・そうだなぁ。まだ1人でお店に入れないってとこから考えて、見習いってとこかな。





(20101002)

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