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吐き出された煙の行く先


















今日は水曜日。
バー唯一の休日だ。


ナマエは朝早くから起き、黒いワンピースに着替えていた。






馴染みの花屋で花束を買い、丘へ続く道のりを歩く。
バーから30分ほど歩き、
森を抜けた人目につかない丘の上には、綺麗に手入れされた小さな墓があった。




墓標に刻まれるのはナマエの母親の名前。
ナマエは花束を交換し、膝をついて手を合わせた。







毎週休日はこうして墓参りをしてから始まる。これが決まりだった。


少し離れた場所にある祖母の墓にも花を供え、丘を下る道を歩く。










「あ、貴方...」






丁度下から登ってきた顔には見覚えがあった。






「おう、昨日は邪魔した」





「軍曹さん。いいえ、今日は休みだけど、どうぞまた来て下さい」





「ああ。...この丘の上は墓地しかねェが、墓参りか?」





「ええ、母と祖母の。
軍曹さんはパトロールかしら?」





「まあ、そんなとこだ」







この上に怪しい人はいなかったわよ、と言えば じゃあ戻るか、とナマエと同じ方向を向いた。












「身内はいんのか?」




「墓に眠ってる母と祖母が唯一の身内です」




「そうか...悪いな」




「いいえ、平気です。
軍曹さんは海賊が増えたからこの島に?」




「そうだな。上の命令だ」




カットされた葉巻に火をつける。
嗚呼その香り、何故か不思議な気分になる。






「あのバーは一人でやってんのか?」




「そう、こんな小娘でもやろうと思えば出来るものなの」





ふう、と煙を吐きながら鼻で笑い、横目でナマエの姿を捉える。





「お前は.....20くらいか」





「今年ね。軍曹さんは30くらいかしら」




「そうだ。
客は男ばかりだろうが、器量のいい小娘一人じゃ危ねェだろう」





「あら、褒めてるの?
まあ口説かれたりはするけど、祖母の代からの昔馴染みが多いから」




「そうか」






ぽつり、ぽつりと会話をしながら丘を下る。
話に夢中になっていれば、知らぬ間にバーの看板が見えてきた。






「あ、ごめんなさい。送ってくれてありがとう」





「構わねェよ。じゃあおれは仕事があるんで、じゃあな」






すぐに背を向け、去って行こうとする彼に、ナマエは咄嗟に声を掛けた。





「あっ、あの、軍曹さん」





「なんだ?」






「あの、軍曹さんの名前は..」





「ああ..」








スモーカーだ。
そう言うと
また深く白煙を吐き出した。







「スモーカー、さん」






「別にスモーカーで構わねェよ。」





「え、ええ....」







「顔赤ェぞ?
また店に邪魔する。じゃあな、

ナマエ。」










ふいに呼ばれた名前にどくんと心臓が跳ねる。







名前、知っていたんだ。






くるりと広い背を向け、歩いて行くスモーカー。
空へと登る一筋の煙は、どこか私の心に似ている気がした。








吐き出された煙の行く先







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mae tugi

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