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昔馴染みの八百屋に、魚屋。
お喋りをしながら買い出しをし、バーに戻り仕込みをすればもう陽は暮れかけていた。
二階に上がり、夜の海のように深い青のワンピースに着替える。
母から受け継いだ自慢のブロンドをアップにし、軽くアイメイクを施しルージュを引く。
ルージュは母が好んだ血のような赤。
鏡に映るのはかつて自分を抱き上げた若かりし母によく似ていた。
開店させればいつも通り店はすぐに賑わいをみせる。
母を殺した海軍。
憎むべき相手ではあるが、ここに通う皆に罪はない。
寧ろ、海賊は罰せられるに当然と言えるから何ら可笑しいことではない。
いつも通り海兵達の相手をしていれば、0時を過ぎた頃だろうか、店のベルがカラン、と鳴った。
「いらっしゃいませ」
入ってきたのは正義のコートを背負った男。中年と言うにはまだ早いが、青年と言うには大人過ぎる。
店内にいた海兵たちは、彼に気付くなりぎょっとした顔で入口を見る。
今迄見たこと無かった彼に、ナマエは一瞬戸惑いを見せるが笑顔で空いているカウンター席に案内した。
彼は座るなり短い単語でウイスキーを注文した。
「どうぞ。ここは初めてよね、お兄さん」
「ああ。今日この島に来たんでな」
ウイスキーを受け取るなり、喉の渇きを癒すかのように流し込む。
「あ、もしかして海兵さんたちが言ってた新しい軍曹さん?」
「...ああ、多分そうだ」
「やっぱり。
まあゆっくりして行ってくださいね」
男は一人特に誰かと言葉を交わすこともなく、ナマエの後ろに並べてある大量のボトルを眺め、静かに酒を飲んでいた。
「この香り....あなたの葉巻?」
「そうだな」
「嫌な匂い」
そう言えば、少し驚いたようにナマエを見て、微かに口角をあげた。
ヘビースモーカーなのか、絶え間無くその葉巻を吸いながら、彼は閉店近くまで酒を飲み帰って行った。
大嫌いだったあの香り
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mae tugi
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