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『おばあちゃん、私ね、大きくなったら海賊になる』
『海賊?冗談はよしてくれよ』
『冗談じゃないよ。かあさんみたいな、強い海賊になるの』
『ナマエは私が死んだ後に、このお店を継いでおくれ』
『ヤダ。海賊になる!
海に出て、沢山の世界を見てみたいの』
そして、かあさんに認められるような強い女になるんだ____
ピピピ、ピピピ、ピピピ
夢から覚めたのと、目覚ましが鳴ったのはほぼ同時だった。
「かあ、さん...」
窓際に飾られた写真を見て、呟く。
長い金髪をひとつに纏め、少し泥のついた顔で綺麗に笑う女性。
その横に置かれた花瓶には、淡い桃色の花が揺れる。
ナマエの母親は女で初めて億を超えた有名な女海賊だった。
強く美しい母は幼い頃からナマエの憧れで、ずっと母親のようになることを望んでいた。
母親はまだ幼いながら海賊に憧れる彼女に、18歳の誕生日を迎えたら、航海に連れて行くと約束していた。
だが、その約束は守られることはなかった。
母親の死が世界に発表されたのは、ナマエが16歳になってすぐのことだった。
仲間内スパイの裏切りにより、海軍に捕まり処刑された。
捕まったことすら知らなかったナマエは酷く塞ぎ込んだ。
そんな中、たった一人の身内である祖母の死。
ナマエは壊れる寸前だったが、昔母親に言われた言葉が彼女を支えた。
『ナマエ、辛い時、悲しい時、もし泣いてしまったら涙を糧に前に進みなさい。そうしないとその涙は無駄な涙よ』
涙を見せたことのない母親がくれた台詞。その言葉と涙を糧にナマエは死んだ祖母の店を一人で改築し、少女一人の手で切り盛りした。
祖母の代からいる常連や、ナマエや店に魅了されて出来た新しい常連相手のバーの経営はとても楽しいし寂しさは感じなかった。
でもやはり、ナマエの心の中では海へ出たいという気持ちは少しも薄れていなかった。
母が愛したあの海を、
母が見てきた広い世界を、
この目で見て、
この身で感じたい。
窓から見える青い海は、写真で笑う母の目と同じ色をしていた。
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mae tugi
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