×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
その優しさが苦しかった









翌日、昼過ぎに目が覚めたナマエは、うろ覚えではあるがスモーカーの前で痴態を晒した昨夜のことを思い出し頭を抱えた。





なんて恥ずかしい...
バーの店主ともあろうものが、泥酔し客に介抱されるだなんて。
しかもあの、スモーカーに。







「はぁ、」




どんなに怠くても、夜は毎日やってくる。
ナマエはしっかり見なりをととの買い出しをして、いつも通りの時間に店を開店させようとしていた。





だが、開店前に店のベルが鳴った。






「す、スモーカー..!」




「悪ィ、ちっといいか?」




「ええ、どうぞ」





スモーカーを店に招き入れ、カウンター越しにウイスキーを出そうとするが、まだ仕事があるとそれは断られ、代わりによく冷えた水を出した。





「そう言えば、昨日ごめんなさい..。迷惑かけちゃったわ」




「気にすんな。おれァなんもしてねェよ」




「いえ、本当にありがとうね」





スモーカーは水を飲み、いつもの葉巻は吸わずにぼうっとしてどこか上の空だった。





「それで、どうかしたの?」




「あァ......実はな、
お前の父親のことがわかった」




「!!」




驚いたように彼を見つめれば、少し眉間にしわを寄せ、手元のグラスを見ながら小さく呟いた





「お前の父親は、

.......先月処刑されていた」




「.......っそんな..!」





思わず、口を押さえる。
小さく震えるナマエに、スモーカーは言葉を続けた。





「執行前にこれを、預けたらしい」





スモーカーから受けとったのは一枚の手紙と写真。ボロボロな写真に写っているのは、まだ赤子だったナマエの姿だった。
何度も何度も見ていたのであろうそれは、しわくちゃで所々擦り切れていた。



スモーカーの隣に座り、
震える手で読んだ手紙には、こう書かれていた






『愛しの娘へ

これを君が読むとき、恐らくおれは死んでいるだろう。
だが悲しんでくれるな、おれは海賊として死ぬことが出来て本望なんだ。

心残りと言えば一度もお前を抱いてやれなかったことくらいか。
きっと今は母さんに似たいい女になっているんだろうな。

お前はお前の道を行け、やりたいことを我慢すると後悔するぞ。


おれもオフィーリアも海賊王にはなれなかったが、おれは海賊として生きてきて幸せだった。
きっと母さんもそうだろう。

こんな最低な父親で済まない。
どうかこの手紙を読む君に、
この先の未来が、
幸多き人生であらんことを。



お前を愛してる、父より









涙が、文字を滲ませる。
ぽたぽたと溢れ出る涙が止まらない。
そんなナマエを、スモーカーは腕に閉じ込めた






「辛いな...」




「っ、私、っく、..本当にひとりになっちゃった..」






大人しくスモーカーの胸に収まり、しゃくりあげて泣くナマエ。
スモーカーは葉巻を灰皿に押し付け、何も言わずただ泣いているナマエを抱き締める







どれくらいたっただろうか
もうそろそろお客さんが押し寄せてくる頃だ
涙でアイメイクはすっかり落ちてしまった。
今日は店を開けるのをやめようか...






「ちったァ落ち着いたか」




「ええ.....ごめんなさい、服、濡らしちゃった」




「気にすんな」






スモーカーから離れ、ぼうっと酒棚を見つめる。
スモーカーか葉巻に火を付けたのか、ふわっとあの香りが鼻を掠める。





「お前、どうすんだ?」





「....まだ、わからない」





「...そうか」






二人、同じように無言で前を向き、部屋にはスモーカーが白煙を吐き出す息だけが聞こえる。





「お前が海賊になるってんなら、おれ達はいつかお前を捕まえることになる」





「....そうね」





「だが海に出るか出ないか、この先の未来を決めるのはお前自身だ」





「....」





「親父さんの言うとおり、お前はお前がやりたいことをするべきだと思うぜ」





海賊にならなくとも、世界を見る術はいくらでもあるさ。
そう言って、スモーカーはナマエの頭にポンと大きな手を置いた。





「ありがとう、スモーカー...」




「じゃあおれァ屯所に戻るぜ。
雑魚海賊共が港で暴れてるみてェでな」



「わかったわ、頑張ってね」




「あァ。
...そうだ、噂だがクロコダイルがこの島にいるって聞いた。
七武海だが海賊は海賊だ、もし鉢合わせたりしたら気をつけろよ」




「え、ええ、わかったわ」




「じゃあな」






スモーカーは葉巻を消し立ち上がり、ナマエは彼を入り口まで見送った。






「あァ、あと」




「なあに?」




「..お前は一人じゃねェよ」



「!」




少し照れ臭そうに目線を逸らしながらそう言って、さっと背中を向け歩いて行った。






「ふふ..っ」





ありがとう。
そう言えば、背を向けたままひらひらと手を振ってくれた。




「余計、混乱するじゃない...」




ナマエはじわりと滲んだ涙を堪えながら、いつまでもその背中を見つめていた。










mae tugi

booktop