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霞みゆくあなたの微笑みに






あの後、なんとか化粧を直し普通に店を開いた。
相変わらずナマエを好いてくれる愉快な海兵たちに、ナマエはなぜか胸が痛かった。






0時を越え、しばらくしてから酔っ払った海兵を見送る。
閉店した店を掃除していると、案の定ドアのベルが鳴った。






「何故だかわからないけど、来ると思ったわ」




「クハハ.....そうかよ」



ギラリと光る鉤爪に、顔に一文字の傷を負った男は
当たり前のように椅子にどかっと腰掛けた。




「なにを?」




「パトロンを貰おうか」




グラスにアイスと酒を注ぎ、彼の前に出す。
ふわりと香ったのは、彼の独特な香水と、スモーカーとは違う葉巻の香り。





「父は、死んでいたのね」



「...白猟に聞いたのか」



「ええ。スモーカーをご存知なのね」



「おれを目の敵にしてやがる、いけすかねえ奴だ」



「なぜ、彼に聞いたと?」




「数時間前通った時ァ先客がいたもんでな。
よく見りゃ白猟で、お前はあいつにすがって泣いてた」



「...すがってなんかないわ」






クロコダイルは冗談だ、と面白そうに笑い、ぐいっと酒を流し込んだ。





「この前も言ったが、おれは明後日の早朝この島を出る」



「...そう」



「お前はどうするか決まったのか」



「ま、だ...」



「フン...まあてめぇみてェな小娘はチンケな島で一生を終えるのもお似合いだがな」



「..失礼ね」




「....オフィーリアに、あの馬鹿親父も、おれ程ではねェが、強くていい海賊だったんじゃねェか」



「..そうね」



「いつも前に突き進む、
精悍なやつらだった」



「...」



からん、クロコダイルの飲み干したグラスの氷が音を立てた。
ナマエはぼうっと溶けて行くその様子を見ていた。






「だが、海賊になったらあの野郎とは敵同士だ」




「...そんなの、わかってるわ」






海軍と海賊、
ナマエが海賊になれば、スモーカーと結ばれることはありえない。
ぽん、と頭に手を置かれた感覚を思い出し、ぎゅっと胸を締め付けられた。





「あァそうだ、オフィーリアから預かったものがある」



「母さんから?」




クロコダイルが取り出したのは小さな箱。
それを受け取り、開けてみると中には奇妙な模様をした果物が入っていた。
所謂、悪魔の実だ。






「あくまの、み..」



「いつかてめェに渡せと預かったものだ。その実はカゼカゼの実。どんな能力かは知らねェが、なんせ風だからな、ロギア系の実の中じゃ群を抜いて強ェはずだ」



「風...」



「その実はお前のもんだ。売るも食うも好きにしろ、売りゃあ1億はする、一生働かず暮らせるぜ」



「...」




「どうするかはてめェの判断だが、おれと海へ出るなら食ってこい。弱い奴は仲間にいらねェ」



「....とりあえず、受け取るわ」



「来るなら明後日の日の出、東の海岸に来い」



「ええ、わかったわ」





そう言うと、クロコダイルは気だるそうに白煙を吐き、また多過ぎる金をおいて立ち上がった。





「あの、ありがとう...ね」




「クハハ...!感謝なら身体で払って欲しいねェ」



「最低」



「フン、ガキに興味はねェよ。
...じゃあな」





歩いていく、大きな背中を見送る。

その逞しい背中に、スモーカーの姿が重なる。
それを振り切るように頭を振りみせにはいる。

上の空で掃除をして、二階にあがり、シャワーを浴びる。

頭を拭きながら母の遺影と、おなじテーブルに置かれた父の手紙と悪魔の実を見つめた。







「私、は...」








『涙を糧に前に進みなさい』



母さん、





『お前はお前の道を行け』



父さん、





『この先の未来を決めるのはお前自身だ』


スモーカー...






みんなの言葉がぐるぐると周り、ナマエの心に突き刺さる。

どうしたらいいのか、
私はどうしたいのか、
考えているうちに眠りに落ちて行く。
揺らぐ景色に見えたものは
笑顔の母さんと、その隣にいる知らない男の人、それにいつもみたいに葉巻を吸う、スモーカーの姿だった。







霞みゆくあなたの微笑みに
私は手を伸ばすことが出来なかったの



mae tugi

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