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触れる指先はきっとやさしい






何時ものように店は賑わっていた。
だが昨日のこともあり、色々考え過ぎて営業どころではなく、お客さんには悪いが今夜は早めに店仕舞いをすることにした。



海兵たちは皆風邪かい?お大事にね、と心配してくれて、大人しく店を後にした。
プレートを変えたナマエはカウンターの内側には立たず、客の方の椅子に座りボトルごとウイスキーを飲んだ。





壁にある幾つかの縁に入った海の写真を眺める。
母が航海中に撮って島によるたびにくれたものだ。





私はどうすればいいのだろう。
海へ出たかった。
ずっとずっとそうしたかった。
今目の前にチャンスがあるのに、
どうしてこんなにも迷っているのだろう。







「はぁ...」






カラン、
店の扉が開いた音がして、振り返ればそこにはクロコダイル、ではなく、スモーカーの姿があった。





「悪ィな、もう閉まったみてェだが外からお前の姿が見えたもんで」





「あ、いえ、いいの」






どうぞ、と席を立ち、カウンターのむこうへ回ろうとすると、スモーカーはその腕を掴んだ。





「隣に座れよ」




「え、ええ...」




ナマエはドキドキと緊張しながらも、グラスにアイスとウイスキーを注ぎ隣に座る彼に渡した。






「顔が赤ェが、風邪でも引いたか」





「えっ、いえ、大丈夫よ。
ただちょっと色々考え事してたら疲れちゃって」




顔が赤いのは、あなたのせいよ。
なんて言えるはずもなく、緊張をほぐすかのようにウイスキーを流し込んだ。




今日のスモーカーはやけに饒舌で、ふたり酒を飲み交わしながら色々なことを話した。
お互いの育った環境、彼の見てきた海賊達。恋愛事情も聞いて見たが、決まった人はいない、とだけ言っていた。






「そう言えば、この前海兵の皆さんが貴方が女の人と歩いていたって言っていたわ」





「あ?
そりゃ、お前のことだろうが」






「え、私....?
あ、」





確かにあの前日は墓参りからの帰りにスモーカーと一緒に坂を下りバーまで送って貰った。





「なんだ..」




「嫉妬したのかよ」



「え、っは?なに??
べ、つにそんなんじゃ..」



「あーわかったから落ち着け」





慌てるナマエを面白そうに眺め、その大きな手でがしがしとナマエの髪を撫でた。



「あなた、酔ってるわね...」




「ボチボチな」




「もう。
はい、お水」




「いらねえよ。
お前こそ顔真っ赤だぞ。水飲め」





「い、いらないわよ」





わかってるのかわかってないのか、スモーカーはナマエの顔を覗くように見て楽しそうに嘲笑し葉巻を吸い込んだ











「おい、大丈夫か」




「..んー」




「ハァ、ったく店主が潰れてどうすんだ」




時刻は午前二時。
カウンターに突っ伏し、すっかり泥酔したナマエは恐らく立ち上がることもできないだろう。


仕方ないから二階に運ぶか、とスモーカーはナマエを抱え上げ、カウンターの向こうの階段を上がった。





初めて入るナマエの部屋はシンプルで、だがどこか女らしくナマエの匂いが体を包んだ。




ヒールを脱がし、ベッドに寝かせブランケットをかける。
当の本人は小さく唸りながらむにゃむにゃと気持ち良さそうにシーツに顔をうずめていた。





ふと、目に止まったテーブルの上。
一輪の花が供えられた、母親 オフィーリアの写真。
壁にはかつての手配書も貼られていた。





「海賊、か...」





馬鹿なことを。

スモーカーは軽く頭を振り、すやすやと眠るナマエに視線を戻した。





「...変な女だ」





ベッドに腰掛け、プラチナブロンド
の長い髪を一房手に取る。
それはすぐにさらりとスモーカーの手を逃れ、白いシーツへと散らばった。






「..また、来る」






そう言い残し、スモーカーは部屋を後にした。

なんだか今日はやけに寒い。
スモーカーはバーを出てすぐに葉巻に火を付けると、人影のすっかり絶えた道をゆっくりと歩き出した。






触れる指先は きっとやさしい





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mae tugi

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