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モビーディック社、営業部。
蒸し暑くなってきた社内の気温に社員達は額にうっすらと汗を滲ませる。


「だぁぁあ!!暑ィ!マルコ、クーラー入れてくれよ!」

「七月までは駄目だよい。節電だ節電」


「あーもうやる気でねェー..」


ぐったりと机に伏せる営業部第一所属の社員、エース。
そんな彼を横目に書類に目を通す営業部第一部署署長のマルコ。

そんな二人のやり取りを苦笑いで見る第二部署署長のサッチ。



「まあマルコちゃんよ、そろそろエースに教えてやれよ」


「あ?なにをだよい」


「今日来るんだろ?噂の!」


「あ、ああ。そういやそうだよい」


「なんのことだよマルコ」


「エース喜べ!このむさっ苦しい部署に女が入るぞ!」


「え!マジか!?」


「しかもあのマルコも惚れた超美人!おれもまだお目にかかったことねェけど」


「マジかよ!!!」


いつおれが惚れたって言ったよい。
というマルコの言葉はスルーされ、あっという間に部署内はその話題で持ちきりになる。



「それにしてもよマルコちゃん、その美人さんはどこに所属すんだ?」


「ああ...あいつは営業は営業でも接待営業部としてここに特別配置すんだよい。まあ普通の営業の仕事もしてもらうが」


「接待営業?へぇ〜、うちの会社もでかくなったもんな〜」


「つーかなんでマルコはその女と知り合いなんだよ」


「まあ、昔馴染みっつーか、前働いてた会社で一緒だったんだよい。知ってる奴らの間では有名なやつだな」


「ふーん...」


「お前ら、一応忠告しとくが、あいつには気をつけろよい。...真に魔性の女だ」


「へへっおれが女に手玉にとられるわけねーだろ?なあエースよ」


「..いやサッチはとられるだろ」


かつんかつんとヒールの音が響き、

ざわざわと騒がしくなってきた部署の扉がふいに開かれて、そこは水を打ったように静かになった。








「あら、ずいぶん静かなのね。

初めまして皆さん。今日からここにお世話になるナマエよ。どうぞよろしくね」





にこりと微笑んだ女神に、
心臓を撃ち抜かれた音がした。


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