「ナマエ、今日暇か?
昼から映画いかねぇ?」
「映画?いいわね。
でも夜はナミ達と女子会なの。それまでだけど平気?」
「おう。
じゃあ支度したら行こうぜ」
とある寒い日の休日。
外ではしんしんと雪が降っているようだ。
エースと付き合ってから早5か月。エースはほぼうちに住み込み、半同棲の生活を続けている。
あの手紙は、まだ捨てていない。
勿論あの番号にかけてもいないが、どうしても捨てられず、ドレッサーの引き出しの奥に眠っている。
唇にグロスを塗りながらその引き出しを見れば、無意識にふう、と思いため息が出る。
「ナマエ最近ため息多くねえか?
なんかあったか?」
「え、そうかしら?
ううん、なんでもないわ。平気よ」
エースは 鋭い。
野生の勘が働くように
わたしのことに対しては途轍もなく鋭い。
エース相手に隠し事をするのは至難の技だ。
平然を装い、お化粧を終え、白金色の神をゆるく巻いて、クローゼットから服を選んだ。
白いフレアトップスに、黒いスキニーパンツ。
それに真っ赤なロングコート。
雪が降っているから、それにブーツと黒い帽子。
その姿を見るなり抱き着き、すりすりと顔を擦り付けるエース。
「あーもー、可愛すぎだろ。
やっぱ行くのやめるか」
「バカ、ほら、行きましょう」
「へいへい」
車で10分ほどの所にある映画館。
高層ビル街にあるからか、
その駐車場にはそれなりの高級車が並ぶ。
休日だからだろう、館内も人が多く、
チケットを買うのとドリンクを買うので二手に分かれた。
ナマエはドリンクを買うためにフードコーナーに並ぶ。
ドリンクを二つ買い、振り返ると勢いよくなにかにぶつかった。
「きゃっ....やだ。
ごめんなさ、 」
「ナマエ...」
「シャンクス、なんで 、」
「奇遇だなぁ。
おれも映画観に来たんだ」
「そう、 じゃあ、私」
振り返り、立ち去ろうとすると手首を掴まれた。
あたたかい、ぬくもりに 一瞬息が止まる。
「何故電話してくれない?」
「 する理由がないからよ」
「ずっと 待ってたんだぞ」
「....」
「番号、教えてくれ」
「私、恋人いるのよ」
「おれは、認めてない」
「認め...
なによそれ、なんであなたに認めて貰わなきゃいけないの?なんの関係もないじゃない、大体っ」
「愛してるから、」
「っ...」
手を掴んだまま、真っ直ぐな瞳で見つめてくる。
この強い、鋭い眼差しが、昔はとっても好きだった。
「手、 離して 。
エースが探すわ」
「番号教えないと離さない」
「は ?」
「離さないぞ、」
「......ハァ」
ナマエは諦めたように、小さく 早口で自分の番号を呟いた。
「ありがとう」
「 じゃあ、 さよなら、」
手を振りほどき、人混みの中に消える
触れられていた箇所が まだ あつい。
その後エースと合流し、映画を見た。
今話題の切ないラブストーリー。
感動のシーンで観客の鼻をすする音があちこちから聞こえる。
隣のエースも少し涙ぐんでいる。
みんなが涙を流すそのシーン、頭の中は違うことでいっぱいで、ほんの少しも泣けなかった 。
映画が終わり、近くの喫茶店に入り、
ケーキと紅茶を頼んだ。
「ナマエ、映画つまんなかったか?」
「え?全然?よかったわよ」
「そっか。
なんかずっと上の空みてぇだったから」
「 そんなことないわ」
からん、手元のミルクティーの氷が溶ける。
「シャンクス か ?」
「っ.....!」
ぴくっと、氷を混ぜる手が反応したのを、
きっとエースは見逃さなかった。
「あたり、か」
「違....、そんなんじゃないわ」
「嘘下手だなぁ、ナマエは」
笑いながら言うエース。
でも、目はちっとも笑っていない。
「そろそろ帰るか。
ナマエ、夕方から女子会だろ?」
まだ、エースのケーキは半分以上残っている。
「え、 でも」
「いいから、 行こうぜ」
さっさと支払いをして、ナマエの手を掴み店を出る。
心なしか早足で、すぐに車に戻りそのまま映画館を後にした。
車内は無言。
10分の距離がものすごく長く感じた。
やっと家に着き、ふう、と一息つく。
コートを脱いであたたかいお茶でも飲もうとすると、強く腕を引かれ寝室のベッドに倒された。
「きゃ、
エース...なにするのよ」
「気分悪ィ、」
「え 、」
「おれといるのに、ずっとアイツのこと考えてたなんて めちゃくちゃ気分悪ィよ」
「エース、ねえ...違うのよ」
「わかってるよ!!」
「!」
「おまえがまだアイツを忘れられねェのも、
おれを愛してないのも、
アイツを 愛してんのも
わかってんだよ 」
「エー ス 、」
「愛してる、ナマエ
誰よりも、愛してる」
少し乱暴に、急いでるように服を脱がされ、唇を深く塞がれる。
「や、 エース ...だめ、」
「どこにも行くなよ....
おれの隣にいて..」
「エース、待って....もう時間が」
黙れ、とばかりに塞がれる唇。
胸に伸ばされた大きな手は、少し冷たくて。
目をつぶり、脳裏に浮かんだのは大きくて、あたたかい、あの手だった。
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