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あなたの瞳が語ってる


ある島の浜辺、
太陽の沈みかかった水平線からピンク色の光のヴェールがあたりを包む。


砂浜にひとつ置かれたベッド。
白い天蓋のついたシンプルな木の縁は長い間潮風に晒されているのか少し掠れ、軋んでいる。
透けたドレープはゆっくりと波打つように揺れ、横たわる2人を外からじんわりと隠す。

女は晒された身体にシーツを纏い、
男の逞しい胸に頭を預けた。


「..ねえ、最高のロケーションよね」

「ああ...静かで、心地いい」


長く続く船旅に、ナマエを気遣い休息に訪れた無人島。
気を利かせたクルー達は少し離れた海岸に船をつけ、久しぶりの陸に上がりきっと宴をしているだろう。

世界を貸し切ったような静けさに、
BGMのように流れる波の音、遠くで聴こえる鴎の声。
外界から逃れたような空間にいる2人は、
まるで海賊とは思えないほど優雅で、平穏で、神秘的なその時間を目一杯楽しむように、何度も口付けを交わした。

「今夜はここで寝たいわ」

「外だが...ちょうどいい気温だ。
問題はねェ..」

「こんな場所に家があったら最高よね」

「...いつかな」


無愛想な声とは裏腹に、刺青の施された男の指は、艶めく女の長い髪を優しく撫でる。
なにより愛しい女と共に過ごせる時間に幸せを感じているのは、誰よりもこの男だからだ。

何年経っても、この女の美しさに慣れることはない。何度抱いても飽きはしない。
夕陽に照らされ赤くきらめく長いまつ毛に、星を集めたような美しい瞳に、ローはつい笑みが溢れた。


「くすぐったいわ...あなたが私を見る目」

「...」

「あなたの目が愛してると言ってる」


悪戯っぽく笑う女に、ローは鼻で笑う。

大切な人を失って以来、人を愛すことなど自分にはできないと思っていた。
そんな相手に出会うことも、愛されることも、無縁だと決めつけていた。
あの日心臓を抜かれた自分が、こんなにも鼓動を高鳴らせ、温かくなる、こんな気持ちにさせてくれた女。
なによりも大切に、愛おしく思える女、ナマエ。
全てを捨てても構わない、到底理解できなかったその考えが、今ではその通りだと思える。

後光が差したような、
やわらかい光に包まれた彼女の美しさに思わずため息を吐く。


「...夢を見てるようだ」

「だとしたら終わらない夢よ、きっと...」


身体を起こし、光り輝く髪をかきあげローの唇に自分の唇を重ねる。
ローは心地良さそうにそれを受け入れ、ふんわりとナマエの頭に手を添える。
幾度か啄み、シルエットが離れ夕陽が差し開く。
陶器のような白い肌を親指で撫でれば、ナマエは気持ちよさそうに目を閉じる。



「..もう少ししたらキャンドルを灯しましょう」

「ペンギンが持たせてくれたやつか」

「ええ、それにバスケットに入った夕食も...もちろんワインもあるわ」

「キャンドルにワインか...あいつは本当にロマンチストだな」

「私のことをよく分かってるわ」

「朝起きたら朝食の入ったバスケットが置かれてそうだな...」



くすくす笑うナマエ、
暫くそのまま談笑していれば
気づいた頃には太陽は殆ど水平線へと姿を消していた。
無数のキャンドルに火を灯しあたりは幻想的に薄暗い夜に浮き上がる。


「いつもの騒々しさがうそみたい」

「...たまにはこういう時間があってもいい」

「ええ...幸せよ、ロー」



蕩けるような時間を過ごす2人を、
遠くで様子を伺う影が2つ。


「あーあ見ろよあれ。
船長のあんな優しい顔見たくなかったぜ」

「ナマエを見る船長はわりといつもあんな顔だろ」

「朝飯のバスケット置いてさっさと戻ろうぜ、自分が哀れになっちまう」



自分達の甘い世界を満喫する2人に、
やってらん、とばかりにシャチとペンギンは向こうの浜辺に停泊している船へ足を進める。
そんな2人のことなどつゆ知らず、
ローはまたナマエを抱き寄せ、
溢れんばかりの愛を降らせる。




「ナマエ、愛してる」

「ふふ、わかってるわ。だって..」






あなたの瞳が語ってる
言葉なんていらない、ただ瞬きひとつだけで






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