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指先でなぞる





「行儀が悪ィぞ」


デスクに乗せられた長い脚。
真っ赤なピンヒールが書類を踏み潰している。


「いい加減にしてよ、いつまでそんな事してる訳?」

「急ぎの仕事だ、終わるまで待ってろ」


新しく付けた葉巻に女は嫌そうに眉をひそめ、
大きくため息をついた。
久しぶりに会えたというのに、この男はずっとデスクに張り付き書類とにらめっこしているのだ。
キスすらしていない。


「あなたはてっきりデスクに押し倒すくらいの事するかと思ったのに」

「そりゃあおまえの願望だろ」

「...」


確かに、この船に辿り着くまでずいぶんかかった。それでなくとも三カ月もご無沙汰だったナマエはすぐにでも抱かれる覚悟でお気に入りのタイトなワンピースにとびっきりセクシーな下着を着け、準備万端で男の元へ来たのだった。


「ハァ...デートに誘われるとは思ってなかったけど、こんなに待ちぼうけ食らうなら一人で飲みに行けば良かったわ」

「....そうだな、先に行っててくれて構わねえぞ。
終わったらそこに行く」

「そんな!私が一人で酒場にいて何も起こらないと思うの?」

「おまえの男癖の悪さにゃもう慣れた」

「私が他の男と寝ても構わないってこと?!」

「そうは言ってねえが、おまえがこの三カ月誰とも寝てないってのは考えられねぇしな...」

「スモーカー!
酷いわ、私は本当にこの三カ月セックスどころか男と二人で飲んだことすらないっていうのに!」

「ほぉ....珍しいこともあるもんだな」

「...その言い方だとあなたはまるで...
ねえ、私以外の女を抱いたの?」

「そんなおっかねぇ顔すんな」

「答えなさいよ」

「あー...一度娼館に行ったな」


書類にペンを走らせながらそう言ったスモーカー。
ナマエは勢いよく立ち上がりその横っ面を思いっきり引っ叩いた。



「ってぇな!なにしやがる!」

「娼婦を抱いたなんて、信じられない!」

「おまえが三カ月も放浪してんのが悪ぃんだろ....それにおまえこそ今まで何度浮気した?
パンクハザードでトラファルガー・ローとおれの女が恋人みてェに一緒にいた時ぁ流石に驚いたぜ」

「っ!....それは、あの、」

「一度の娼館ごときをガタガタ言える立場じゃねぇだろうが」

「....」

「...よし、終わったぞ。
どうする、街に行くか?
それともさっさと押し倒せばいいか?」

「....私と別れたいならそう言いなさいよ」

「そんなこと言ってねぇだろ。
おまえ程いい女は他にいない」

「じゃあどうして酷いこと言うの」

「おまえは元々奔放な女だ....それを承知してこうなったがおれだって傷付くことはある。
自衛ができるようになった、それだけだ」

「....わからないわ、何が言いたいの」

「離れている間おまえは他の野郎とも寝る。
おれも他の女を抱く。それでフェアだ」

「!
あなたが他の女を抱くなんて絶対嫌よ」

「職業柄素人には手を出さねぇから安心しろ」

「娼婦でも一緒!
ねえ、こんなの辞めましょう。
昔の過ちは謝るわ、もうこの先あなた以外と寝たりしないから....」

「無理すんな、おまえは一人では満足できねぇ女だろう...」

「お願いよ、スモーカー。
あなただけを愛してるの」


スモーカーに歩み寄り、その膝に腰を下ろす。
頭の後ろで腕を組む男に寄り添い頬を指で撫でる。
潤んだ瞳に、縋るような表情、いつもの強気な女からは想像もできないそれにスモーカーは口角が上がる。


「....ああ、おれも 愛してるぜ」

「ん、もう浮気されるのってこんなに腹が立つのね」

「...さあ、じゃあそのワンピースを早く脱いでもらおうか」

「デートはやっぱり無し?」

「そうだな.....後回しだ」


ネイビーカラーのワンピースの肩紐がずらされ、覗いた胸元に唇が這う。
先程まであんなに真剣に処理していた書類を床に払い落としたスモーカー。
コートを脱ぎ覆い被さってきた男にナマエはこれ以上なく胸を熱くさせた。





指先でなぞる
その傷の奥、想うものが私だけでありますように。



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