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ウォール・マリア奪還作戦が決まったのは、それから暫く経ってからのことだった。
最近やたらと会議が増え、役人の来訪も多くなっていた。
何か大きな事が起こるのだろうと思っていたが、ナマエには何も伝えられることはなかった。
「アレン、もう寝た方がいいよ」
「そんなこと言ったって...考えることが沢山ありすぎんだよ」
「ねえ、あなた達。
少し顔を貸してくれるかしら?」
「!ナマエさん...!」
ナマエは会議室から出てきたエレンとアルミンの肩に手を添え、にっこりと微笑んだ。
「成る程ね...あなたが常人外れた能力があるのは知ってたけれど。なかなか大胆な作戦ね」
「ナマエさんは、団長から何も聞いてなかったんですか?」
「ええ、何も。リヴァイもハンジも皆揃ってそんなこと口にしなかったわ」
「そうなんですか....。きっとまた救護班として同行をお願いしているものだとばかり」
「怪我人も今までの比じゃ無さそうだものね...。とにかくありがとう。引き留めてごめんなさい」
「いえ!めっそうもないです。
美味しいお茶、ありがとうございました」
ナマエは二人を見送り、ソファに腰掛け残りの酒に口をつける。
これだけ重大な計画だというのに私に何も教えてくれないのは何故?
しかも計画はもうすぐ実行されるなんて。
確かに最近体調が悪いことも増え、悪夢も変わらず、元の世界へ戻る為の糸口を探る為街に出ている事が多かった。
そうだとしても、悲しい。
所詮、私は余所者だから?
理由が知りたい。
居ても立っても居られず、残りの酒を流し込み、ナイトローブ姿のまま部屋を出た。
向かった先は団長室。
コンコンとお飾りのノックをして返事を待たずに扉を開けた。
「!ナマエ、」
そこには少し驚いた顔をしたエルヴィンと、ソファに座るリヴァイとハンジがいた。
テーブルの上にはアイスペールとグラス、そして上等そうな酒瓶。
「あらあら、仲良し三人組で楽しそう。
お邪魔だったかしら」
「作...仕事の話をしていただけだよ。ナマエもどう?一杯飲まない?」
「それはご丁寧にどうも。優しいのね」
カツカツと歩きエルヴィンのデスクに寄る。
手元にあるグラスを取り上げそこに腰を下ろした。取り上げたグラスを一気に飲み干す。
「何か私に秘密があるんじゃない?団長様」
「秘密...なんてないよ。
どうした?酔っ払っているのか」
「オイ、ここでイチャつくのは勘弁してくれよ」
「貴方にも、言ってるのよリヴァイ」
「一体何のことだ」
「ウォール・マリア奪還計画....
私が気付かないとでも思ったの?」
「!」
「あらら....だから言ったじゃん...バレるに決まってるって」
「てめぇ、それをどこで...」
「隠してるつもりだったの?
一体どうして?私だって力になれるわ 」
「そうだろう、君は強い。それに治癒能力はなにより力になる」
「なら作戦の内容を詳しく..」
「だが今回の同行は認めない」
「....何故なの」
「....君がいない方が都合がいいからだ」
「.....そう...わかったわ」
「ナマエ、」
氷の溶けかけたグラスをデスクに置き、部屋を出ていく。
リヴァイもハンジも何も言わない。
私は必要とされていない。この世界で、
私は役に立つことはできない。
「ねえ、エルヴィン...あんな言い方」
「まあでも...ああでもしねぇとアイツが納得しねぇだろ」
「....彼女を守る為だ」
「でもナマエはきっと、」
ハンジは言葉を止めたまま、そのまま静まった部屋には氷の溶ける音だけが響いた。
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