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最近、よく魘される。
悪い夢を見ているのか、どうかは覚えてないのでわからない。
だけど夜中目覚めるといつも汗をかき、息を切らしている。
孤独で、言いようのない気持ちに押し潰されそうになる。

それは 誰かと共に寝ていても一緒だった。



「!!ハァ....ハァ....」

「ナマエ....どうした?大丈夫か?」


隣には飛び起きた私に驚きながらも心配そうに私の背中をさするエルヴィン。
冷や汗を浮かべ、胸を抑える私を落ち着けるように抱きしめてくれる。


「ごめんなさい....最近、毎日のようにこうなの。
悪夢だがなんだか、理由はわからないのだけど..」

「疲れがたまっているのかもしれない。医者に安定する薬を頼もう」

「そう、ね..」

エルヴィンに抱き締められたまままた瞳を閉じる。暗い闇の中、頭に浮かぶのは何故か....。





...




「リヴァイ、最近ぼうっとしてないか?」

「ああ?そんな訳ねぇだろ」

「何か悩み事でもあるのかい?
私でよければ話してくれよ!相談に乗る!」

「ちっ....悩みなんかねぇ、余計なお世話だクソメガネ」

「ふーん?ナマエの事じゃないんだ?」

「....何故あいつが出てくる..」

「何故もなにも、好きなんだろ?
エルヴィンとナマエが二人で見る時のリヴァイ、物凄い顔してるよ」

「関係ねぇ....目の前でイチャイチャイチャイチャ、目障りなだけだ」

「あっそ、素直じゃないな〜」

「クソみてぇな事考えてねぇでさっさと仕事しろ」





俺が、あいつを好きだと?
ただでさえ異世界人の、あんな目立つ女、
つい見ちまうのは仕方ねぇだろ...

特別な意味はねぇ、ただ目に入るだけだ。
大体、好きって気持ち自体俺にはわかるわけない。
この歳まで恋愛と無関係だったんだ、
今更誰かを好きになる訳がない。
この先も、きっと。









夜、もう皆が寝静まった頃
大浴場からの帰りに中庭を歩くナマエを見つけた。
深青のナイトローブを揺らしたそいつは中庭のベンチに腰掛ける。
つい、足が向かった。






「不用心だろ、夜中に一人でうろうろすんじゃねぇ...」

「...あなたが見つけてくれると思ったの」

「...」

「冗談よ、怖い顔しないで。
....最近魘されるの。悪い夢を見ているのか、汗だくで飛び起きるのよ」

「....薬を飲めばいい。俺もたまに貰う」

「あなたも悪夢を見る事が?」

「仲間や部下を亡くした夜は、よくそいつらが夢に出る」

何故見殺しにしたのかと 血みどろの身体で俺の足元に縋り付いて嘆くんだ。

「....あなたが悪い訳ではないわ。
責任を感じる必要はない」

「そうはいかねぇ....」

「あなたのお陰で命を救われた人はもっと多い。それに その人達も、あなたを恨んでなんかないわ」

「....」


手に持った酒瓶をそのまま口付けるナマエ。口の端から一筋のが流れる。
それはあごを伝い、首筋に溢れる。
無意識に、それを親指で拭ってしまった。



「!...あら、ありがとう」

「....わりぃ、つい。
それより グラスくらい持ってこい...。
エルフってのは随分と下品なんだな」

「意地悪ね、あなたしかいないのだから許してよ」



月に照らされ輝く白金の髪は星を集めた川のようで。
気の強そうな大きな瞳は星空そのものだ。


「ああ、クソ...」



衝動的にその後頭部を引き寄せ、唇を塞いだ。
ほんの少し驚いたように目を開いたが、抵抗することも無く唇を合わせてくる。
度数の強い酒の味すら、果実酒のように甘く感じた。

まさか、あいつの言う通り、俺は 。



「...まだ お酒が溢れていたかしら」

「うるせぇ....」


黙らせるようにまた唇を重ねる。
ゆっくりと角度を変え、その甘い口内を堪能する。
女とキスをしたのはいつ以来か。
娼婦を抱く時もキスはしない。
他人の唾液なんて汚ねぇだけだ。


小さなリップ音を立てて、名残惜しそうに唇が離れる。
鼻と鼻がつきそうな距離、ナマエの長い睫毛が揺れる。


「....」

「悪ぃ.....深い意味は、ねぇ」

「そう....残念ね」

「エルヴィンとよろしくやってるくせによく言うじゃねぇか..」

「セックスしてるだけよ。
深い意味はないわ」

「...俺は意味のないセックスの相手はごめんだぜ」

「....私にもわからない。
でも、壁外で初めて会ったあの日から あなたには不思議と惹かれていたわ」

「....」

「あなたは人を愛したことがある?」

「....ねぇな」

「...私もよ。
愛し方がわからない。
きっと色んな人を傷付けた」

「前の世界の男はどうした?ローだったか」

「言ったでしょう。エルヴィンと一緒、
セックスして そばにいるだけ」

「ほう....そんな男が無数にいるのか」

「....それに、人間を愛すのが怖いの。
だって、いつか死んでしまうでしょう、私を置いて」

「...エルフは殆ど寿命では死なねえんだったな」

「ええ。
身を焦がすほど、全てを捧げる程に誰かを愛しても、私は彼が老いるのを...死んでいくのを見なくてはならない。そしてその悲しみを抱えながら一人で歩まなければいけない、永遠の命を..」

「....それでも共に過ごす時間は幸せなんじゃねぇのか」

「!」

「限られた時間だろうと、いつか別れる運命だろうとその時間はかけがえのない幸福を感じられるんじゃねぇのか」

「なかなか、的を得たことを言うのね..」

「....愛する人を失う怖さを恐れているのは俺も同じだ。いつ死んでもおかしくない世界で生きてる」


もしかしたらこのキスが、最後のものになるかもしれない。
次の壁外調査で死ぬ可能性は大いにあり得る。
今すぐに大型巨人が壁を破って食われる可能性だってあり得なくない。
そんな世界で誰かを愛し愛されようなんて 馬鹿のすることだ。そう思ってた。



「...あなたはきっと、そんな悲しみのない世界を作れるわ」

「...お前も、いずれ元の世界に戻り故郷を取り戻す」

「お互い目指すものは違えど自由を望む者同士。あなたの幸せを祈ってるわ」


俺の手に自分の手を重ねるナマエ。
それを避けることもせず、ただ 月の光を浴びる女神のような女に魅入っていた。






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