short | ナノ
ざわめきと踊る


 彼は酷く混沌としている人だと強く感じた。
 よく、言動がうまく噛み合わずぎくしゃくした人をチグハグだとか、継ぎ接ぎしたようなだとか、ぎこちないだとか表現するが、彼はそれでは足りないズレと違和感に満ち満ちていた。
 例えば、凛としているのに甘えん坊で、残虐なのに生ぬるく。愛しているのに興味が無く、温もりを欲しているのに寄せ付けない。
 彼は以前、「自分で自分の考えが理解できないのに他人の気持ちが分かるわけないだろ」などとぼやいていた。それは、彼自身のことなのか、それとも他人に向けて放ったことだったのか。
 確かに言葉通り彼は自らの思考を、感情を理解できていなかった。どういう気持ちなのかをわかってはいるものの、理解はできない。だからこそ感情を表現するのが不得手でしかし分かりやすいのかもしれないが。だとすれば、その言葉は彼のものだろう。


「俺は、自分が壊れた方が、つまり死んでしまった方が、消えてしまった方がいいと思っているし、自分がいないところで誰もなにも思わないのも知っているし、けれども俺がいないといけないし、俺が死ぬわけがないと思っているし、困る人がいる気がするんだが、それはそう思いたいだけで、だからといってなにがどうというわけじゃないけれど」
「それはどういう意味で?」
「死にたいと、生きたいと、思っているのは、死にたいと、生きたいと、思い込みたいだけで、その実何も思っていなくて、それさえもそう思いたいだけかもしれないし、ああ、もう、わからない」
「きっと疲れているんだ。もう、忘れてしまえよ」


 「でも」「だけど」なんて繰り返し呟く彼をベッドに押さえつけて、意味を成さない彼の思考を止めるべく、野暮ったい前髪を軽く持ち上げて口付け、その厚みのある妙に赤い扇情的な唇に歯を立てて小さく噛み千切った。


2012.10.18



prev | next



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -