本当はわかっているの −次は――、――、お降りの方は…… 「じゃあ、僕はここで」 「はい、さようなら」 「さいなら」 優しい笑顔で手を振って降りていくあの人が好きだった。 今、バスには私しかいない。運転手さんと二人きり。 学校の帰りにいつも見かけたあの人を、いつの間にか目で追って、いつの間にか仲良くなっていた。 元から乗る人の少ない時間帯だから、私とあの人と、ほかにチラホラしか乗客はいない。 だから皆仲良しになって、楽しくお話をしていたのに。 「運転手さん」 「おー?」 「次のバス停までどれくらいですか?」 「んー、20分ぐらいでねえかなあ」 「ありがとうございます」 いつも聞いているから返事なんて分かりきっているのに、なんとなく聞いてしまった。 車内は非常に静かだ。 私の本を捲る音と、エンジンの音だけが静かに響く。 誰も、乗っていない車内は案外寂しい。 優しいクラシックが聞きたくなって、家に帰りたくなってきた。 おじいちゃんの秘蔵のレコード、こっそり借りてみようかな。ジャズだけど。 私は大きな段差に備えて目を閉じた。 大きな揺れが体を浮かばせた。 「大丈夫かい、お嬢ちゃん」 「うん、つかれて戻ってきただけだから」 「そりゃあ難儀だ」 豪快に笑った運転手さんに小さく笑い声を漏らす。 まだ、彼は乗車しない。 2012.09.05 |