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哲学する気体


 世界は数学でできている。そう言ったのは数学者だったか。往々にしてその道のエキスパートというものはそれを盲信する節がある。末恐ろしい話だ。さて、誰が何を信じるかなどどうでもいいが、私は何を信じるべきか?
 「シュレディンガーの猫」というものをご存知だろうか。今や中途半端に有名になった哲学理論の一種だ。果たして猫は生きているのか死んでいるのか。数学者や化学者なら言うだろう。


「50%の確率で生きていて、50%の確率で死んでいる」


 さあ、私はどちらを信じるべきか?確率は二分の一。生きているやら、死んでいるやら。ならば、それ以外の答えがあると信じようか。
 猫は脱出したのだ。青酸ガスが発生する前に。死ぬかもしれぬ半分を、信じたくないがために。毒に、私に殺される前に。
 冷たいドアノブを握りしめ、ゆっくりと開く。猫ははじめからいなかった。


2013.01.06



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