short | ナノ
レモンキャンディ


「ハッカ、食べる?」

 ぐい、と押し付けてきた四角い缶に眉を潜める。とりあえず手に取れば、カランと固い音がした。犯人の彼の手には透明なガラスの器。その中に、色とりどりのあめ玉が転がっていた。ただし、白く目映いそれはない。なるほど、缶の中からそちらに移し変え、ハッカだけ上手いこと取り除いてまた缶に入れたらしい。
 ハッカあめ入りの缶はカラカラと音が立つほど軽い。仕方がない。指でぐい、と蓋を外すと、いい音が響いた。別に俺はハッカあめは得意でも好きでもなんでも無いのだが。彼は満足そうにニコニコ笑って黄色いあめを口に放り込んだ。あれはレモン味だろうか。ガラスの器はご機嫌なのに、缶はしかめっ面で面白味がない。

「……うま」
「嘘つけ」
「お前はお子様味覚だからな」
「まーね」

 彼はそういえば、のど飴だとかミントだとか、そういった傾向も嫌だと言って押し付けてきた気がする。鬱陶しい気もするが、それが彼との緩い友人関係なのだと思えばそれはそれでいいのかもしれない。
 あめを並べて遊び始めた彼を缶で軽く叩くと、彼は照れくさそうに歯を見せてまた笑った。


2012.11.17



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