04

 
我輩は猫である。
名前はまだない。



「んとね、ジャンガリアンとか」

「猫です」

「イントネーションダメゼッタイ」

「じゃあ見た目でいく…ふくふく!」

「豪炎寺くんちにいるから却下」


予想以上にリュウジのネーミングセンスは貧相で、食卓を囲んだ8つの目が一斉に細まる。あ、風介の目もともと閉じてた。
猫がやってきた日から2日たった朝食、もう5回目の食卓会議。結局飼うことになったそいつ(♂)の名前はいまだに決まらず、こうやって毎食話し合っている次第である。


「やっぱほら、ジェネミネントが一番いいよー」

「こんなかわいい系の子につける名前じゃないじゃん…」

「なまえに賛成」


しかもエイリア時代のチーム名ミックスてなんつー自虐だよ。晴矢が卓袱台の横で子猫用ミルクに頭をつっこむ名無しくんを見やって苦笑い。レーゼ残念すぎる。
寝こけている猫アレルギー野郎は特に意見もないようで、こぼしそうな牛乳をどけてやりつつ肩を揺らした。


「ねえ風介、名前どうする」

「んあ?」


寝呆け眼をぱちぱち瞬いて何で私がみたいな反応をする。ちょっとアレルギーに耐性がついたのか、部屋にいるだけならくしゃみもそんなに出なくなった。この子鼻水ティッシュ片付けないから困るんだよなあ。


「一番なついてるのは風介だしね…あ、なまえいちごジャムとって」

「おうよ」


ヒロトの言葉に、風介はまだぱちくりしながら猫を見た。ミルクと格闘し終わってリュウジにごしごし口を拭かれている。にゃあ、と高い鳴き声にリュウジの頬は緩みっぱなしだ。

猫を一通り眺めたぼうっとした碧い瞳は悩むように揺れた。一応考えてはいるらしい。また猫を見る、そしてなぜか窓を見る。猫に戻ってきて、基本あまり動かない唇からねむそうな低い声。


「…ゆき」

「晴れてます風介さん」


ガゼル残念。


「ちがう、色だ」

「ジャンガリアンとレベル変わんねえし!」

「じゃあノーザン」

「」


解せぬインパクト。
今だに凍てつく闇云々が抜けていないのを感じさせるネーミングを披露するだけして、風介はソファに特攻していった。ブランケットを手繰り寄せてばふんと横になり、毛でもついていたのか本日初のくしゃみをかます。

残された皿の上でさびしそうに縮こまるフランスパンが冷めていった。たべないの、と聞けば夢の中に片足をつっこんだようなふわふわした肯定。


「……食うなよ、食いかけ」

「え、もったいないのに」

「俺が食う!から!」


わたしを威嚇するように見た晴矢にぱちんと叩かれて、パンに伸ばしていた手が空をさまよう。もはや定番のDV。ひりひりする甲をさするわたしをよそに、ひとくちで風介のパンを詰め込んで牛乳をあおり、ごちそうさんと皿を運ぶ。


「晴矢ってわかりやすいね」


ヒロトが風介の残したトマトを回収して、猫をかまいに席を立ちながら笑った。なにがだ。
おいでジェネミネント、なんて試しに呼んでみた。無反応。ひらひら振られるヒロトの手をガン見しているだけだ。


「やっぱやだって」

「えー、いいと思ったのにな」

「もっと可愛いのにしてやりなよ」


ぶすくれて頬の膨らんだリュウジの頭をぽんと撫でてヒロトが言う。兄弟みたいだ。晴矢と風介はきゃんきゃんうるさい双子だけど、あの二人は静かな兄弟愛が渦巻いている気がする。
やっぱグランさまだからかなと思考が半年前に戻りかけてあわてて脳内を一掃した。戻りたいなんて思ってない、だれも。

猫の名前決めに2日もかけるなんて、なんて平和なんだろう。


「ちっちゃいうちにはやく付けないと覚えないよ」

「でもさ、急いては事をし損じるってね。大事だしちゃんと決めたいんだって」


困ったように笑って、にゃうにゃうとヒロトの手にじゃれつく名無しくんに「イプシロンも入れたいのかな」なんて呟いている。そろそろ気付いてくれ、そこじゃないんだ。

しかし雄猫かあ、わたしは風介の分も食器を重ねながら呟く。動物を買うには手間もお金もかかるし、飼い始めはなにかと大変なものだ。調べてみたら色々しなきゃいけないことが見つかって、ペットなんて飼ったことのない施設暮らしの集まりだからてんてこまいになるだろうなと今から苦笑いした。ヒロトも同じことを考えていたらしく、能天気なリュウジに話し掛ける。


「とりあえず健康診断と注射に病院行かなきゃね。姉さんに車出してもらって」

「あー…」

「あとほら、家猫にするんだし子どもいらないなら去勢とか」

「きっ、いきなりおんなのこが何言うの!」

「あいたっ」


なんで怒られたのわたし。DV。


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