03
「おいでー…はあ、全然懐かないな」
しばらくうちに来た子猫をこねくり回していた円堂くんたちもおうちに帰った夜。
段ボールに詰め込まれていたという小動物はなかなか警戒が強く、至急調達してきたご飯でおなかいっぱい元気いっぱいになってからはソファの下にダッシュで駆け込んだまま出てこなくなった。
「リュウジよくだっこできたね」
「拾った時はほら、よわってたから」
肩をすくめてそんなことを言うと、リュウジは晴矢にひっぱられてごはんの用意に駆り出されていった。そのままソファの下にいられると色々困るなあ…トイレとか。せっかく円堂くんたちがおつかいで買ってきてくれたのに。
部屋に戻ったヒロトも外して、居間に残されたのは風介とわたしの二人。しかし戦力にならないのが残ったもんだととりあえずしゃがんで猫を視界に入れる。
「…目がかゆい」
「こするからでしょ」
「ねむい」
「知らん」
すぱんと切り返したもんだから拗ねてしまったのか、わたしが下を覗くソファからカーペットに足を下ろす風介。猫が、動いた。
「お?」
「なっ、」
ソファを離れようとした風介の足に、行きと同じくらいのスピードで走り出てきた白い塊がからみつく。バランスを崩した右腕がしゃがんだままだったわたしの頭をはたいたのは黙認してやろう。またもDV。そのままじゃれるようにくっついた猫を踏みかけて、ぎりぎりで止まった。「くしゅっ」とりあえずくしゃみ一発。
「すごい、動物使いになれるよ!」
「…嬉しくない」
考えあぐねた風介はとりあえず両手で猫を抱えあげると、さっきまで自分のいたソファにちょんと乗せた。そして顔と新たに追加された項目である手を洗いにまた襖へ向かう。猫はといえば、
「風介、なにそれ刷り込み?」
「え」
さっさと飛び降りてご主人さま(らしい)を追いかけていた。犬みたいな子だなと目を丸くしていると、襖が開いて戻ってきたのは布巾片手のリュウジ。風介の足元を見てわたしと同じ顔をする。
「…風介ってマタタビ常備してたりとかするの」
「…猫アレルギーの人間が?」
はあと深いため息で部屋を出ていく風介。それを追う猫を捕まえたリュウジは、嫌そうなそいつの視線にちょっと傷つきつつわたしに苦笑いを向けた。
嫌がっているわけではないと思う、扱いに慣れていないだけで。それが同じ環境に育ったわたし達より顕著に表れているだけで。そしてきっと、それに気付いてはいないのだ。
じたばたもせずにクララみたいなジト目で黄緑の髪をみつめている子猫は、しっぽを警戒で張りつつも呑気そうだった。
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