05

 

実に三悶着ほど、いやそれどころではない色々なものにぶつかった結果、白い雄猫がノーザンくんになってしまってからまた数日経った。これぞ妥協案。なんとも言えないリュウジのセンスに絶望したわたしたちの負けだ。風介の猫みたいでなんかちょっとむかつく。

ちなみに当のノーザンはといえば、買い物当番から帰ってきたリュウジがぱっと広げた腕を軽くすり抜けて廊下に走り去っていったなう。猫ってそんなものだよとしょげる彼の荷物を受け取りながら肩をたたく。


「でも風介の次になついてるじゃん」

「ごはんあげてるの俺なのに…」


さめざめと泣いてみせるリュウジをもう一回はげまして、よっこらせとビニール袋の移動を開始。した所で襖からふっと顔を出したヒロトに阻止された。


「もってく」

「わお、基山くん紳士」

「それほどでもあるよ」


あははと冗談混じりの笑顔。ちょっとばかりうさんくさいヒロトは純粋な動物に懐かれも嫌われもせず、モブ並の扱いをされているようだ。ジェネシスなのにモブ。決勝で点決めたのにモブ。流星モブ。猫さすがとしか言いようがない。

ビニール袋の中身を選別しながら、そういえばと流星モブが言う。


「晴矢ってノーザンに嫌われてるよね」


それはきっと晴矢が必死に逃げ惑う小動物をひっつかんで熱と湿気の中に監禁し、熱湯と薬品を塗りこんだからだろう(別名おふろ係)。一番不憫な役柄である。
それ以来ノーザンは晴矢から常に距離をとって動いている。どれだけダッシュで風介を追い掛けていたとしても、必ず晴矢をよけて走るのだ。忘れる日がないから多分ガチな嫌われ方してるんだろうなあ。


「そもそも風介ラブなのに晴矢と相性いいってことはないとおもう」

「あー…」


晴矢がことごとく不憫になってきて、どちらからともなく黙り込んでしまった。閑話休題。リュウジが着替えをすませて階段を降りてくる音を合図にするかのように各自持ち場につく。わたしは台所に、ヒロトはソファに。


「今日カレーだよねっ」


まな板を取り出そうとしゃがむと、相変わらずぴょんぴょこ黄緑の髪をゆらすリュウジがご機嫌でエプロンの背中に張り付いた。俺肉増量で、なんて気の早い注文を承る。
彼は平均中2男子と比べて小柄とはいえ男の子であって、がっしりした骨格が筋肉に覆われた腕につつまれると少なからずどきっと、

……そこまでしなかった。年下ポジション緑川くんにはよくいちゃいちゃしてやったもんだ。


「リュウジ、あつい」

「でもなまえ体冷えてるよ、エアコン上げてこよっか?」

「ちょっと緑川、じゃなくてリュウジー?俺から見えないからって何してるのさ」

「ぎゅうって」

「なにそれ解せぬー」


左からヒロトにものしかかられて、無理矢理立ち上がった体がまたつぶれる。せめてまな板を置かせろ。
右側と比べて血色の悪い腕はすこし骨張っていた。小さい頃から一緒だし、男女差が出始めたあたりには彼はグランさまだったから特に意識したことなかったなあとぼんやり思う。


「この線からこっち俺のね」

「ずる、ヒロトのが多い!」


人の背中を陣地制にされた。超次元な斬新っぷり。その肩甲骨はわたしのだ。
きゃあきゃあと女子のようなノリに気圧されてつぶれたままいると、べたんと手をついた床がぎしりと揺れる。顔を上げれば、


「そこの寄生虫二匹、ちょっと来いや」


苦い顔のチューリップが仁王立ちしていた。


「晴矢視認、散開!」


ヒロトの意図不明な(こいつこれ多いな)イケ声が凛と台所に響く。リュウジ必殺ライトニングアクセルに晴矢があわてて振り返った頃には、司令官も姿をくらましていた。キズナ100%。


「あんのやろ…!」


つぶれたわたしを起こしながら、ふたりが消えた襖をにらむ。ご機嫌ななめだなあと半眼でそれを見て、にんじんさんやらをさがしに野菜室を開けようとまたしゃがみ込んだ。じゃがいもをいくつか抱えたとたん、またぐっと背中が重くなる。デジャヴ。

のしり。


「風介てめえ溶けちまえばか!」

「なまえあいす、アイスが食べたい」

「勝手に冷凍庫開けりゃいいだろうが!」

「晴矢、少し静かにした方がいい、ご近所さんに迷惑だ」

「誰のせいだよちくしょおおお」


金の目をかっ開いて、べりっと音のしそうな勢いで風介の首ねっこをつかむと、晴矢はなぜかわたしの背中をばしばし叩いて消えていった。恒例のDV。一方的に激しい口論が遠ざかっていく。…わたしがたまにノーザンにやる運び方だった。

知らないうちにがっしりした、日焼けした体からの高い声がやたら頭にちらついて、ルーの箱をぶん投げる。なにあれ聞いてない、ずっと細っこくて白いままだと思っていた。


「あたっ」


隠れてたヒロトに激突した。


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