今年の2月2日は、本当に何年分もの盛り上がりをつめこんだ大掛かりなパーティーだった。カラオケを予約しバースデーケーキを頼み記念プリクラを撮りに行き、ハルちゃんちと言う名のレストランを貸りきって(?)、午前中から夜中まで凛は表情をくるくるさせて忙しく笑っていた。わたしと似鳥くんで口裏を合わせ、岩鳶水泳部で計画し、それから御子柴先輩にも協力を仰いで練習日程を調節してもらったりして。

また鮫柄との合同練習も取り付けてもらって、きっと凛にとってしばらく楽しいことが続くであろう。実際凛は返答こそぶっきらぼうなもののおめめがきらきらしている。そう思っていたのだけど。

「真琴に聞いた。主催者お前だったのか」

その合同練習の後。毎回恒例で無理矢理ふたりきりにされた夕暮れ。開口一番そう言った凛の表情は、とても感謝を伝えるふうではなかった。暗いから一緒に待っててあげるねえ! とさっきまでそばで騒いでいた岩鳶水泳部はもういない。助け舟もなにもない。「そうだよ」手をとって歩き出しながら答える。複雑な顔をしたまま同じスピードで隣を歩いて行く凛。

「どうせ渚あたりだと思ってた」
「なぎちゃんに祝ってほしかったの?」
「はあ? なんでそうなる」
「だってわたしに主催してほしくなかったみたいな顔」
「それは、……」
「なんかやだなって思うことあった?」

凛はこうやって、ひとつひとつ聞いていってあげないと答えてくれない時がたまにある。でも時折「子どもに言うみたいなのやめろよ!」って怒る。扱いづらい。
駅に向かう道を歩いて、わたしはゆっくり言葉を待った。ぽつぽつ点在する街路灯に照らされるたび、凛の赤い頬が浮かぶ。

「普通は、ああいうの、ふたりでやって」
「うん」
「みんなでやんのは一日前とか後日とか」
「……ああ、当日はデート写真載せてお祝いリプだけもらうみたいな」
「そ、れは、しねえよ!」

そんな真っ赤になって否定しなくとも。

女って記念日とかそういうの大事にするもんなんじゃねーの? 今まで逸らしていた顔がこっちを向く。あ。泣くか。そう思って構えたけれど17歳はそんなに子供じゃなかった。いまにもほっぺたを膨らましそうな顔をしているだけだった。十分かわいい。「ごめんね」ととりあえず謝っておく。

わたしが気にしていないのかを聞くと言うことは、凛はちょっと気にしているということである。凛ちゃんは当日だけはふたりきりがよかったのか。乙女心を理解してあげられないのは大抵わたしの方だ。遠距離の頃からわかっていたつもりだったけれどここ一年間で更にそれを痛感している。
乙女ちっくに悶々としたりロマンチックなことをしたがったり、嫉妬も照れも多分わたしより凛の方が激しい。ひとりで悩んで追い詰められて泣いてしまう前に、痛かったところを探し出して抱きしめてあげないといけない。少女漫画のイケメンになった気分になる。人気のない夜の道端で抱きしめ返してくる凛の瞳は、本当に恋する乙女で困ってしまう。

「今年は四年ぶりのお祝いだから。特別にお祭り騒ぎ」
「…来年は」
「ふたりがいいなあ」
「…………だろ?」

突然声を元気にして、凛はわたしから離れると笑顔を進行方向に戻した。ふたりがいいねえ、そう言ったら凛は照れてもごもごしたのだろう。仕方ない状況を作ってあげるのがわたしのお仕事だ。今日は男らしい泳ぎを見せてくれた後なので立てておく。話題をそれにさりげなくシフトさせてバタフライを褒めると、凛は特に照れることもなくドヤ顔をして繋ぎ直した手を振り回した。こういう時の爛々とした瞳は、少女漫画のスポーツ系イケメンヒーローそのままなのに。


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