っべー。まじっべーわ。ミサワにもなってしまうレベルである。先月入ってきた新入りちゃんひとりに、奇代の盗賊なはずのわたしは人並みにしかない頭を悩まされているのであった。いじめられているとか嫌われているとか、そういう人間関係の話ではなく(そもそも幻影旅団の一番のいじめられっ子は団長である)、もっと根本的な。

カルト、パドキア出身。かわいい。むっちゃかわいい。聞けばまだ10歳、家も能力も知らないものの実力はお前さばよんでんだろというくらいにはかわいい。間違えた、すごい。すごいかわいい。そう、わたしはカルトがかわいくて仕方なくて困っているのだ。旅団に入って初めての妹分なのだ。ねえフェイ見てよー。思わず隣でテレビを見ているフェイの邪魔そうな服をひっぱった。

「カルトがねーなんか隅っこという隅っこを覗いてるよかわいーよ何してるんだろ!」
「子供の考えることワタシ分からないね」
「脳のサイズは同じでも作りはちがうのかあー」

傘は案外凶器だった。
ちょこまか歩く10歳児を遠巻きにガン見する大人ふたりはよく考えたらちょいと変態くさい。空き家のわりになかなか綺麗な一室で冷蔵庫と壁の間を覗き込んでいたカルトは、ふとそこにしゃがみこんだ。…なにかを発見したらしい。
人形のような子供が部屋の隅の真っ暗な隙間に向かっていると、まるで心霊的ななにかの気がしてならない。いやそれは非常に困る。さすがの幻影旅団も幽霊との戦闘は不可能だし、団長そういう番組嫌いだしなあ。変なところ弱いんだよなああのひと。でもカルトの能力は未知だ。もしガチおばけとお話していたらとてもじゃないが洒落にならない。性格やオーラは操作系を感じさせるものがある、けれど、もしかしたら特質かもしれないし。固まるわたしを横目で見ていたフェイが服の中でため息をついたと思ったら、すうと動いた。

「何してるね」
「あ、フェイタン」

わあああいつ勇者だ。そろり、彼の影に隠れるようにわたしも幼女(?)に近寄る。着物の袖をうまく持って足をたたむカルトは、まっしろな手を埃の張る床にぺとりとつけた。とりあえずわたしもフェイもしゃがむ。端から見ればちっさい組3人が部屋の隅でさらにちっさくなっているのだ、なんとも言えない怪しさだろう。実際誰かの視線を感じる。仲間外れのコルトピだろうか。

そしてカルトの指先に乗ってきたもの。それはちいさな黒い、「あのね、だんごむし」「ぎゃあああ!?」飛びすさったわたしに後ろからフィンクスが声をかけてくる。視線はお前だったのか。どうりで妙に温かいとおもった大丈夫だ問題ない子供やばい恐ろしい。カルトの横に座り込んだままのフェイが耳を押さえてこちらを睨んでいる。しかしこのふたりが並んだ図もやばいものである。写メりたい衝動を抑えてのろのろもう一度近づいたカルトの手のひらで、奴はわたわたと焦心丸出しで丸くなる途中だった。

「かわいいのに。嫌い?」
「いやその足をかわいいとか絶対言えないはみでてるうわあああ」
「なまえこういうことばか女くさいよ。耳キーンてしたね」
「フェイのごはん今日ピーマン定食!」

だって一応室内なのになんでこんなのがいるんだ。100歩譲ってGならまだわかる……いやわかりたくないけど…Gはまあ仕方ない、のになぜわざわざ足が無駄にあるやつに。窓からポイさせるとカルトはすこし残念そうな顔をした。昨日獲物をなぶっていた時のとは随分違うそれで、思った以上に、年相応だ。歩くたびにひょこひょこ隙間を覗いているのはもしかしたら明確な目的はなくて、ただの好奇心なのかもしれない。変な大人たちの中で冷たく生きようとしてるだけで。…わあ。ひとりでにやにやし始めたわたしにやたらフェイがガン飛ばしているのは気にしない。目の前で首をかしげたカルトの頭に手を乗せる。一瞬構えてざわりと殺気立ったオーラがやわらかくなって舞い戻って、昔のフェイに似てるなあと思った。突然スキンシップを取ろうとすると受け身を取られたあの頃。だめだ。手を焼いてしまうに決まっている。

「よしカルト、おねーさんとあそぼう」
「なまえ暇なの?」
「いや、今日怖いお兄さんばっかでつまんないでしょ」

なにしたい?フィンクスが背後から抗議を申し立ててくるのをばっさり無視して(ちび組をかまうのがだいすきなお兄さんは傷ついたらしい)、わたしはカルトをわしわし撫でた。ちょっと頑張ってフェイも撫でた。大人な方の服の隙間が鋼色に光っていらっしゃるのは、カルトのかわいさに免じて気にしないことにした。



姫が所望したハナフダ、花札?がまさかのこの支部になかったので盗ってきました。3分ロビング。帰宅したわたしを見るカルトは心なしかいつもより爛々としている。着物に下駄に扇子、前に教えてくれたそれらを見ればその姿を見ればこういうものがすきなのは一目瞭然だったのに何たる失態だ。今は別行動だけれどノブナガ仕事してほしいとりあえずスゴロクとカルタとやらも盗ってこさせることにした。オリガミもすきらしい。

「じゃあカルト、わたし5分でルール暗記するからフェイと遊んでて」
「ガキのお守りお断りね」
「ルールわかるのあんただけなんだからお願いー」

説明書を広げてくっつけた背中から、とんでもなくとげのあるオーラがぐっさり刺さる。具現化してんじゃないってくらいには刺さる。多分実際している。でも取り分けた札を乱暴につかんでやるフェイのかわいさにはカルトも勝てないことを、本人は知らない。いつか知らしめてやりたいと思い続けてもう10年は経つ。

「なまえはガキに甘い」
「フェイはわたしに甘いよ」
「……親ワタシね」
「うわ10歳相手に大人気ない!」

合わせた背中は痛い。それでも温かい。人殺したちも人だった。カルトが子供を忘れようとはしないように、このチビも別に若者を捨てようとしているわけではないのだ。刺々したわりには絶対離れない背中がそれを物語っているので、フィンクスの生暖かい視線の処罰はフェイに任せることにした。


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