「あやせがーわさん」

珍しすぎるまつげの飾りが面白くふよんと揺れる。ふりかえった第五席は、どうせ霊圧でわかっているくせに「なんだあ、君か」と笑った。

「追っかけかとおもったよ」
「なんで私が弓親先輩のファンやらなきゃいけないんですか。はい、今月の精霊廷通信とどきました」

隊の中でも特別まともである十一番隊第四席みょうじなまえは、届け物やらがある度によく呼び出される。檜佐木副隊長なんて毎月私に購読している隊員全員分の冊子をおしつけるもんだから、だんだん雑用と変わらなくなってきた。九番隊隊舎受け取りだと送料無料、だから皆そこで頼むわけだが、九番隊としては十一番隊のイカれた野郎共には来てほしくないらしい。だからって何で私が配達やらにゃならんのだ。
まあ普通に考えてこんなものをちゃんと皆に配れるような真面目な人間がこの隊にわたしの他にいるなんて思えない。…それに各隊長たちからのご褒美は結構はずむ。まんざらでもなかったりしなくもない。大体おいしいお菓子なんだけど。

「斑目先輩にも渡しといてくださいね。仕方ないから隊長たちには私が届けます、仕方ないから」
「うん、よろしくねえ」

でもかけらも悪怯れるそぶりがないとさすがにまんざらでもある。うちの隊の階級はいまいち役に立たないから、隊の中での扱いは彼の方がわたしより少し上だ。だから私はこのナルシストを先輩と呼ぶかわりに、上司仕事しろと訴える権利を持っている訳である。
私がじっと見ていた和菓子の紙袋に通信を二冊つっこんだ弓親先輩は、思い出したようにまたそれに手を差し入れた。

「はい、おつかれ」
「わ、期間限定饅頭! ありがとうございます!」

まだほんのり暖かい包みを受け取る。あ、これ高い方だ。我ながら単純に両手で抱えてむふふとほくそ笑んでいると、あきれた風に口端を上げた先輩の手入れされた手にわしわしと髪を撫でられた。

「すごく物欲しそうな顔してた」
「えっ」

至近距離のしたり顔に反論の余地を失う。物欲しそうって、なんか、合ってるけど違うような。崩された髪を直そうとふさがった両手をわたわたさせている私を見てひとしきり笑った先輩は、いつも以上に輝いていた。人をからかっている姿が一番かっこいいだなんてこのやろう。視線なんて交わせないから藤孔雀目がけてどなる。

「隊長んとこ、いってきます!」
「え、もう? つれないなー、」

そんなかわいい顔のまま行くんだね。瞬歩の態勢に入った私の耳をちょんとつまんでまたにやついた彼の姿は、私が目を瞠っている間にかき消えた。もう霊圧がとおい、斑目先輩のところだ。

なんでこんなにイラつくんだろう。勝ち逃げされたからか、それともさりげなく去り際におしり触られたからか(京楽隊長でもこんなセクハラしない)。多分一番は自分にイラついているのだ。かわいい顔とか言って、どうせ僕が一番美しいとか思ってるくせに。それがわかってるのにすこし、いや大いに反応してしまった自分がむかつく。

半眼で饅頭と冊子を抱え直す。この心の乱れをなだめるにはこんなんじゃ足りないわ、弓親先輩のばーか。もう隊長たちの分の通信は隊舎に置いておこう。半分捨てるぐらいのノリで。
逃げる必要もなくなってゆっくり草履を鳴らそうとした所で、ふと包み紙に挟まる白が目にとまった。無駄に高級な紙をとりあげると、出身街を疑うほどお行儀よく並ぶきれいな筆文字。

「残りのご褒美は夜まで待ってね」

思い出したかのような耳の熱に、またイライラした。





お代官さまと街娘



[] []



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -