「ね、なにしてるのー?」
「うっせえな、黙って待てねえのかよガキ」
「同い年だし…」

食堂のテーブルにだらんと腕を投げ出して、キッチン部分になっている方を見やる。深夜だからいつも調理してくれる人たちはいない。
ぱちんという音と共に冷蔵庫の方の電気がつく。不動くん食材物色中。なんだか慣れた手つきだ。

「それ犯罪なんじゃ…」
「どうせいつかオレらが食うもんなんだからセーフ」

にやり、こちらに悪怯れのかけらもない笑顔を見せてまた作業に戻った。この人のことだから本当の犯罪も経験があるんだろうなぁ、なんて不謹慎なことを考える。

「炒飯くいたい」
「……どーぞ?」

腹が減った。それだけ言って部屋を出た不動くんを追いかけて今に至る。何故同室にいたかなんて質問は野暮である。
勝手に電気をつけて勝手に調理場に入り込んだから何かパクるのかなと思ったけど、まさかのクッキングらしい。冷凍されていた米を解凍しながら、器用に人参の皮を剥いていく。しっかり二人分、当たり前といえば当たり前だけどそれが嬉しい。
わたしは料理があまり得意ではないから、下手に手伝っても邪魔になるだけだろう。そう思って、広いテーブルにひとりでおとなしく座って様になっている不動くんの姿を眺めている。あ、卵片手で割った。かっこよすぎる。

リズミカルな音を聞いていると、段々と睡魔が襲ってきた。切られていた空調をちゃっかり効かせてある上にこの時間帯だから無理もない。
ふわふわとしたパジャマの腕に擦り寄っていると、徐々に音がゆっくりになっていくことに気付いた。そしてぼうっとした耳をくすぐる、低く嘲笑うようないつもの声。

「暇だからって寝んなよなまえちゃん……っと、あーうっぜ」

にやついた声が唐突に荒れたのが働かない頭でもわかった。なにかあったのかと腰を浮かせる。

「…? どしたの、」
「! ばか、邪魔だから来んなっ」

立ち上がってカウンターに寄ったわたしを、ばたばた手を振って追い払う不動くん。できたら包丁離してほしい。珍しくあわてたその瞳がやたらとかわいいことに気付く。…潤んでる?

「……かっわいい、不動くん玉葱で泣いてる?」
「っ!? 何言ってんだおまえ俺がこんなんごときに負けるとでも、」
「わ、わかったから包丁置いて危ない!」

わたしに包丁を向けていたのは無意識だったらしい。あ、と小さくつぶやき包丁を玉葱に突き立てて(八つ当たり?)から、拗ねたように作業に戻った。
生理的だとしても涙を見られたのが結構堪えたのか、それから反逆児はずっと無言だった。暇に任せて腕に顔を埋める。具材を炒めるいい音にまた眠くなっていった。



「出来ましたよなまえちゃーん…っておい、起きろなまえ」

カン、といういい音と共に額に痛みが走り、びっくりして顔をあげた。鉄製のおたまで叩かれたわりにあまり痛くなかったのは、ヘディングの要領で位置をわざわざ狙ってくれたからである。

「なに寝ちゃってんだよ、まじでガキだな。出来たっつの」

適当な皿に盛られた炒飯をテーブルに置いて、向かい側の椅子を引く不動くん。小腹が空いたにしては多めだけどおいしそうだ。ヘディングする位置をさすりながら起き上がった。

「うわ、おいしそ……いただきます」
「はい、どーぞ」

ぶっきらぼうに置かれたスプーンをとって手を合わせる。ひとくち、ぱくり。さすがと言えばいいのか、超おいしい。

「んまー! ありがと不動くん、おいしいよ」
「…そうかよ」

スプーンをくわえたまま鼻を鳴らして、わたしから視線を外す。耳がちょっと赤いのは言わないでおこう、言ったらまた新鮮な反応が返ってくるのはわかっているけれど。
今日は二人きりの食堂とおいしい炒飯、そして彼の目の端にまだ残る涙のあとだけ堪能しようと思った。自分で気付くまでは絶対指摘してやらない。







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