いわゆる性なるクリスマスもさせていただいて、なぜか何日か越しの筋肉痛に襲われている昼下がりである。冬晴れの窓は気分的に寒いのでカーテンを閉めてしまった。
先週ようやく出されたこたつになかなか高く積まれているのは、毎年頭を悩まされる白い四角。何を隠そうお年賀。そしておわってない。こまった。


「ほら、明王も友達の分書いて」

「えー…」

「はいは一回」

「そもそもはい言ってない…」


みかんに親指を突っ込んだまま寝かけていた明王の方へ数十枚かの山を滑らせる。意外と起きているのか、ちゃんと手を拭いてからボールペンをねだってきた。めんどくさそうに印刷の余白にペン先を押し当てる。

その間にわたしは親戚への分の続きに取り掛かった。まだ結婚している訳ではないから少ないものの、血縁関係近めな不動姓もわたしが書かされている状態。めんどくさいけどやらない訳にはいかない。住所って印刷するにも書くにも面倒だから本当になんというか、とりあえずめんどくさい。


「佐久間か…みかん食えよ、でいいな」

「短すぎやしませんか」

「いーのこれで」


どこがだ。隙間がっつり空いてる。男の年賀状ってこんなだっただろうか。習字でもやっていそうなはっきりした明王の字は、誰宛でもひとことだけしか書いていない。

わたしはわたしでなんて書けばいいのかわからなくて、とりあえずがちがちの敬語を乗せて無理矢理終わらせた。今年もよろしくお願いしますくらいしかないのにどうしろっていうの。
年賀状にバリエーションを求めるひとはきっといないだろうからとりあえず粗相がなければ大丈夫なはずだ。未来のお義母さんとはもう長い知り合いのつもりだし。とは言いつつ怖いのがこの文章の長さから分かってもらえるだろうか。

テレビを見ながらついで程度にボールペンを動かす明王は、視界の端で早くも飽きてきているようだった。住所も書いてあげたのにこいつめ。ちまちま手が止まるのが見える。


「……なまえちゃん、ダーリンごはん作ってきてやろうか」

「逃げんな」


ぶすくれる明王の肩を軽く叩けば、唇を尖らせて拗ね顔のまま目線を戻す。ご機嫌取りにちゅーのひとつくれてやろうとして、こたつは上半身のスキンシップには向かないと改めて知っただけだった。

男にとって、年賀状とはその程度のものなんだろうか。ちいさくわたしも唇を尖らせる。正直わたしは初めての連名年賀状が嬉しくて仕方がなくて、ふたりで撮った写真とか印刷しちゃったのに。同じ住所に友達からのが届くことが楽しみで仕方がないのに。

干支の隣に載せられた写真は夏ふたりでTDSに行った時のもの。めっちゃかわいい明王と、かわいくなろうとめっちゃ頑張ってるわたしが珍しくラブラブっぽく笑っている。
写真、やめとけばよかったなあ。年賀状でまで釣り合わないと再確認されてしまうことになる。ため息をつくと、ちらっと明王がこっちを確認してきた。いいから早く書け。どうしたのと聞かれてもこのもやもやを何と伝えればいいか分からない。
結局個性のない言葉を連ねて不動姓用は終了した。もう一度大きくため息。もううちの方は実家だけでいいか。


「次みょうじの方か」

「やっとね」


またこっちを見た明王の質問に、すこし嫌味を込めて答える。座椅子の背もたれに身を預けきって伸びをしていれば、明王はグッドタイミングだなと謎の外来語をくれた。本日二回目の何がだ。
転がっている穴の空いた蜜柑を手に取る。寝ぼけていたわりには器用に肉を避けて指を刺したらしい。食べたら明王怒るかな。すると後回しにしてきたわたしの友達の分をどけて、その彼はさっきわたしがしたように年賀状の束を滑らせてきた。


「ん、じゃあなまえの実家は俺書くからこれの隙間埋めて」


束はやっぱりさっきわたしが渡してやった彼の友達の分である。なによそれ、言いながら見れば確かに明王のちまっと載せられた一言の下にある余白はどれもちょうど一行分だった。
みかん食えよ、もちはきなこ派です、まあ今年も頑張れ、ぱらぱらめくるそれらはたまにしかまともなものがない。最後のなんか他人事。これに繋げろってどんなスキルを求めてるんだこいつ。しかも共通ではない友達も混じっているから、何を書けばいいやら分からない。

それに、これも書くということはつまり自分のがすごく後回しになってしまうということで。明王もそれはしっかり気付いているはずなのに、悪怯れの欠けらもない。それはきっとわたしの心境がばっちり予測されているからだろう。現にノルマが20枚以上追加された計算になる上にたまに英語だったりするのに、わたしはまったく苦痛に感じないのだ。

なんだ、わたしより明王の方が浮かれてるじゃない。自分から書くと言ったわりには自信なさげなそいつをちら見すると、ちょうどこっちを向いてにいっと笑う。
これからはずっと連名なんだよ、恥ずかしくてお互い言わないけれど、そんなのは分かり切ったことだ。






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