明日のおやつはプリンにしよう。昨日の夜卵を混ぜながら思ったことを思い出すことができたので、わたしはちょっぴりご機嫌である。もう気候も暑くなくなったしちょうどいい、夏にプリン作りは過酷だ。
それになにより、プリンは奴らの大好物。

カラメルを生地に沈めたタイミングで、間延びしたインターホンが鳴った。プリン好き第一号が帰ってきた。がちゃがちゃ鍵を開ける音。わたしがびびらないようにか、いつも自分で鍵を開けるのにインターホンも鳴らしてくる。生地を入れたグラスを冷蔵庫に入れてから玄関へ。

「うぇるかむばーっく」
「ん。ただいま」

ちゅ。おかえりのバードキスも慣れたものである。
ジャージにエナメル、中学の時とあまり変わらない格好で帰宅した修也は、世界サッカーの日本代表として活躍する名ストライカーに成長したというか維持しているというか、とりあえずすごいやつで。そしてわたしの旦那さん。

「プリンつくってるよ。5時くらいかな、おやつには余裕で間に合わぬけど」
「じゃあ食後か」

ジャージをハンガーにかける修也はちょっと残念そうだ。5時なんかに食べさせたら夕飯が入らなくなってしまうだろうな、続けながらテレビのリモコンを取っている。そういえばひとりで家にいるとわたしはあまりテレビを見ない、地デジで買い替えたらなんだか意味不明で放置するようになってしまった。ぱっと午後のよくわからない番組がつく。

「修也だけこっそり食べれば?」
「…そんなことはできない」
「優男め」

ソファに座ると、荷物整理を終えた修也も隣に落ち着いて。テレビもよく分からないしなんだか暇でそちらを見ると目が合ったので、とりあえずどちらからともなくキスをしておいた。家事はまだ残っているけど後ででもいいし、なんだかやることがない。その上ねむくなってきてしまった。なんともぐだぐだなアフタヌーンである。

と、ふと時計を見た修也が「む」とちいさく唸って立ち上がった。わたしもつられて時間を確認して、ああとまた同じように立ち上がる。

「もうお迎えの時間かあ」
「なまえも一緒に行くか?」
「んー、静かなうちに家計簿つけたいからお願い。紅茶いれて待ってる」

上着を羽織りながらそばに立ててある家計簿を取ってくれた修也は、ドアの鍵たのむと微笑んでまたキスをした。漫画のおよめさんみたいにエプロンもスリッパもないけれど、陽のあたる一軒家でらぶちゅっちゅだなんてもう新婚さんじゃなくても幸せだ。

「じゃあママ、行ってきます」

パパモードの修也はなんだか、夕香ちゃんがちいさかった頃の彼とだぶりまくりでおもしろい。
そんな夕香ちゃんももうあと数年で大人になってしまう。夕香ちゃんが雷門中を卒業した時の彼の感動っぷりはなかなかのものだったけれど、うちのちびがいつか結婚したりなんだりした時奴はどうするんだろう。…また隣で無言のだだ泣きをするんだろうか。ちなみに夕香ちゃんの高校卒業式はすぐそこだ。

そんなことを考えながらやかんを火にかけ、家計簿とレシートを見比べてうんうん唸っていれば、パソコン近くに放置してあった携帯が鳴った。開いてみれば何の事はない修也からの報告メール。

『回収完了なう
…使い方はこれでいいのか?』

何のことはあった。誰だ人の旦那にそんなイマドキ教えたのは。しかしまさかここまで似合わないなんて、にぶく光るシャーペン片手に腹筋をひくつかせるわたしの頭では犯人が大体わかっていた。吹雪この野郎。計算どころではない。

家から幼稚園まで10分。家計簿も粗方終わったしそんな気分でもなくなってしまったし、そろそろ紅茶を入れよう。ノートを戻して台所に戻ると、いつの間に注いだのか、修也の飲みかけの麦茶がすみっこにちぢこまっていた。
ひとくち啜りながらティーバッグをみっつ開く。間接キス、なつかしい響き。付き合って1年経ったあたりでもうすでにそんな感動は薄れてしまったけれど。切ない成長だ。

成長といえば、うちのちびも大きくなっていくんだなあ。感慨深くなりながら多めにミルクを注がれた子ども用マグは、まだまだちいさい。わたしも修也も、まだまだこれから。
ぴんぽーん、がちゃがちゃ。一連の音がリプレイされて、「ままー!」と楽しそうな声がした。

「ぷりん?」
「ごはんの後な。それより挨拶だろう」
「おかーり」
「色々と惜しいな」

近づいてくるコントにひとりで吹き出す。かわいくないただの部屋着で、おしゃれなケーキも高級紅茶もない。漫画みたいなおかあさんにはなれていない。それでも十分、豪炎寺なまえは幸せなう。




(まま、りあじゅーなう?)
(…それも吹雪に教わったか)
(ふどおくん)
(暇人どもめ…)








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