色白な手足が、ふわと宙で動いた。暑いこの島で毎日サッカーをしているというのに相変わらず周りより幾分も白い。それはひどく島の季節に不釣り合いだった。
土にユニフォームをよごした身体はぐったりしていて、フィールド全体の動きが何秒かフリーズした。

「…不動!」

私がデータファイルを投げ捨てて走りだすのを合図にするかのように、選手たちが駆け寄っていく。雨上がりのフィールドでジャージが泥だらけになるのもかまわずに膝をつくと、明王は意識はあるものの力なく目を閉じていた。

さっきも言ったようにこいつの肌はひどく白い。基山ほどではないけど。生気を失った今、それはものすごく心臓に悪かった。焦るばかりの手でとりあえず明王の額に手をあてる。

「熱中症、とか?」

風丸の上ずった声。なにそれ、サッカープレイヤーのくせに。
あいにく大人は用事で出払っている。とりあえず私が熱中症予防で使っていた冷えぴたを額に貼りつけると、はあと小さくつらそうに息をついた。意識もあるし痙攣もない、輸液の必要はなさそうだ。

「とりあえず運ぶぞ!」

冷静に指示を飛ばしたのは意外にも綱海先輩だった。ひょいと土方先輩に抱え上げられて、いつもは反抗的な患者は嫌そうにしながらもおとなしくクーラーの効いた旅館へ運ばれていく。
キャプテンや鬼道くんがおろおろとするメンバーを収めてくれることを信じて、私は「看病任せて」と秋ちゃんに拾い上げたデータファイルを押しつけた。





「飲んで冷やして寝りゃ平気だ、様子見たのむぜ」

太陽なめんなよ。にっと笑って私の背をばしんと叩き、常夏島国出身の二人組は部屋を出ていった。ベッドサイドの椅子に腰掛ける。

「ドリンクあんまり飲まなかったの、休憩時間に」
「怒るんだったらてめーが作れよ」
「何それ、秋ちゃんがドリンク作り失敗するわけないじゃん」
「…もうだまって、なまえちゃん声でかい」

気だるそうに寝返りを打って、明王は枕に顔を埋めた。そのまましゃべらなくなって沈黙が漂う。ホイッスルの音。ミニゲームが再開されたらしい。こいつが抜けたから鬼道のチームはひとり少ないはずだけど大丈夫だろうか、なんてグラウンドに想いを馳せていると、ぐいと袖が引かれた。

見れば壁側を向いていたはずの明王が、ぼうっとした瞳でこちらを見つめている。どうしたの、なんて聞かなくてもわかる。弱っているときはいつもこうだ。

「よしよし、吐きそうだったらちゃんと言ってよ」

ちょんと指先を掴ませて笑いかけると、明王は不服そうに眉間に皺を寄せて、でもしっかりと私の指を握った。人差し指と中指だけをきゅうっと握りこむ白い手は私より何回りも大きいはずなのに、今は頼りない。

「付き合ってんの多分ばれたね」
「…お前が全力で心配するからだろ」
「最初は不動って言える余裕あったんだけどな」

楽観的に笑えば、明王もかすかに口端を上げた。そのまま寝る態勢に入ったのか瞼を下ろして静かになる。
机ではさっき無理矢理がぶ飲みさせた水筒が汗をかいていた。持ってきてくれた春奈ちゃん曰く、昼作った分の残りらしい。つまり昼少ししか飲めなかったということだ、もう体調が悪かったのかもしれない。
確かに私が作って渡せば、明王が弱っていることに気付けただろう。こいつのことだ、心を開ききっていない子の前じゃ強がるに決まっている。
いつも私の仕事であるドリンク作りを色々あって秋ちゃんに任せた時に限ってどうしてそんなことに。

「…なまえ」

目を閉じたまま明王がつぶやく。

「なに?」
「夕飯、一緒に食ってやるから起こせ」

それだけ言って、本格的に明王の身体から力が抜けた。ばれた=一緒に飯食える、というかわいらしい方式らしい。さっきのばつの悪そうな顔を思い出して呆れ笑いをする。手のかかる子である。規則正しく上下し始めた彼のお腹に布団をかけてやった。
力が入っていないのを確認して指を外す。精神的な疲れに自分もゆるりとまぶたが落ちる。

眠気が極限になる寸前、うすく開いた視界で明王の手が無意識にふわふわ動いているのが見えた。私を探しているようで、本当に手のかかる子だ。ゆらゆら伸ばした指を絡めて何度か握ってやって、私は繋いだ手の持ち主とおなじ世界に落ちた。








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