ひさしぶり。いつ会っても全然変わらない彼女は、河川敷の夕暮れに照らされてほのかに光っているように見える。俺の目がやばいのかもしれない。色んな意味で。
部活がいそがしい時も、テスト期間がずれた時も、なまえはさびしさを理由に雷門中で浮気に走ることはなかった。隠しきれない不満をすこしだけ洩らしながらも、なまえは帝国在校の俺の彼女のままだったのだ。

「会うの何日ぶりでしょうかっ」
「…2週間くらいか?」
「15日だし、ばか」

ふくれた頬を生ぬるい風が撫でていく。鉄塔につく頃にはすっかり夜の帳が降りてくれていることだろう。
エナメルにひっかけていたタオルで拭いてから手をさしだす。飛び付く勢いで指をからめ、なまえはえへへと笑った。FFIサポーターとしての活動もおわり、頻繁に会えなくなって耐性がなくなったものだからちょっと焦る。

「七夕って、せっかくなら流星群かぶればいいのにな」
「それじゃ危ないからじゃないか、二人が」
「あ、そか、ぶつかるのか」

紫の空へつないだ手を仰ぎ、子供っぽさの抜けない思考なりの真面目な納得顔をした。広場の階段を登り、鉄塔を見上げる。そういえばめずらしく広場に円堂の姿がない。鬼道さんがここは雷門サッカー部の大事な場所なのだと言っていた。お邪魔します。

「気を付けろよ、落ちたら痛いぞ」
「なんかむかつく…」

眼下の町は光り輝いていたが、鉄塔公園の周囲はしずかだ。月が邪魔だとぼやくなまえの頭を苦笑気味で撫でてから三角を探した。

「あー次郎こっち、あった!」
「あれが天の川か」
「たぶん…東がベガ?」
「……東…?」
「次郎がばかなの忘れてた、右」

撫でていた手でぺしんと叩く(もちろんかゆくもないくらい)。頭を押さえたなまえは悪怯れなくにこにこ笑って、まだ白い両手を空に突き上げた。

「あれが彦星、そっちが織姫だね。立ち位置逆だ」

位置移動。バランスをくずしたらしいなまえの身体が俺にきゅうとしがみつく。俺のシャツに頬をずりずりとすりつけてしばらく堪能してから、思い出したように頭上の一等星を見上げた。

「じろー」
「なんだ?」
「7月7日に久々再会なんてろまんちっくじゃない?」

日本語発音でへらりとだらしなく頬を弛ませたなまえの瞳は、俺と星が写り込んできらきらしている。俺もきっと同じ頬と右目をもっているんだろう。

1年に1度の逢瀬なんて大それたものじゃない。それでも、15日間は華の中学生にとっては大きな大切な時間だった。
なまえが他のカップルがデートやらに時間を費やしているのを、毎日羨んでいることは知っている。俺の勝手で彼女の青春をむだにしていることもわかっていた。

「次郎、さびしかった」
「…ああ、ごめん」

彦星は誘惑に負けてうりの実にかじりついたが、それと織姫を天秤にかけたわけではない。サッカーもなまえも好きだ。それを理解してくれるなら、もっとなまえのことが好きだ。

「きれいだな、」
「ね、天の川すごい」
「なまえの方が」
「……よく聞くやつ」

腕の中でわかりやすく跳ねる細い肩。覆いかぶさるように体重をかかて抱きしめた。星もなまえも、全然飽きない。









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