わたしがまだまだくそがきだった小学校高学年の時、彼はいつも公園にいた。親は共働きでお受験するつもりもなく、がらんとした部屋にいるのがいやでわたしもいつも公園にいた。
わたしが知っていたのは彼の名前と、とりあえず3つは年下だということだけ。いつの間にやら懐かれて、学校がおわるとランドセルのまま公園に寄る日々が続いた。

彼はわたしの六時間授業がおわるのを、いつも滑り台の下に座り込んで待っていた。大きな目に遊んでくれるお姉ちゃんを映して、サッカーボールを抱えているのに「シーソーしよう」とわらう。彼はシーソーがだいすきだった。


数年経って、わたしは中学生になった。部活が始まり授業も長くなって、通学路ではなくなったあの公園には徐々に行かなくなった。
久々に、そして最後に会った中2の春、彼はいつの間にか大分大きくなった体を滑り台の下に縮こめてまだ誰かを待っていた。昔と変わらずサッカーボールを抱えて。

「…なまえ?」

今日は部活ないんだ。取り壊されたシーソーを横目に、わらう瞳は泣いていた。
今思えば彼はシーソーが好きなんじゃなかった。ふたりでしかできないことを、したかったのだ。




だから嬉しかったのだ、あの時のわたしと同い年になった彼のかげっていた表情が輝いていくのが。
寂しさを加速させたわたしが言えることではない。でもとにかく嬉しかった。決勝で点を入れられなかったのは残念だったけど、優勝に歓喜する姿にちいさな頃の面影を見た。

東京からの新幹線が来る。もう何時間待っているかわからない。大分マスコミが増えたから、多分そろそろなんだろう。
新幹線の入ってくる音。降りた人たちが階段を降りてくる。ひしめきあいをしばらく見ていた所で、報道陣が我先にと一点へ駈けていった。

それをうざったそうに綺麗な顔を歪めて払う少年。荷物とボールネットをぞんざいに持って、わたしの方へ歩いてくる。
ああ、大きくなった。ちょっと曲がってしまったけど、ただかわいかった時代の名残でいい感じの美少年になっている。テレビで見るよりもっと色白だ。

だるそうに歩くスピードが不意にゆるくなった。すこし目付きの悪い碧い瞳。映っているのは、

「……お前、」

昔とあんまり変わらないわたし。

ひさしぶりと笑うと、彼もちょっとだけ笑った。マスコミ超写真撮ってるけどこういうの気にしないのかな。サイズの成長したボールを抱えてゆっくり間を縮めてくる。おつかれさま、がんばったね、言いたかったことが全部頭から飛んでいく。わたしの前まで来ると、にっと並びのいい歯を見せた。

「俺、シーソーよりサッカーの方が上手かったんだぜ?」

ネットをぶらさげたままの腕が伸びてくる。近づいていく距離に、年上の威厳なんて皆無に等しい。会わない間にすっかりませて、ほのかにデオドランドの匂いがした。
そういえば明王くん、わたしの前でサッカーしたことなかったな。かっこよかったよと言おうとした感想は彼に飲み込まれた。話題振っといて言わせないなんてなんという俺様に育ったんだろう。
それも、これから知り直せばいいことだ。



ライラック
花言葉:初恋の思い出






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