何やかんやで服屋さんに来ました。居心地悪そうにあわあわしている霧野の手をひっぱってトップスの棚へ連行する。霧野に似合うテイストだけを考えてロリの入ったひらひらショップを選んだせいで、正直わたしもちょっと目がすべった。

「……オレ変態みたい…」
「大丈夫だよ、霧野今女装だもん」
「神童にばれたら何て言おう…」

いつも一緒のあの神童にも秘密だなんて意外だ。つまりわたしにばれてしまったのは相当のハプニングだったのだろう。それでもお構いなしにしょげた背中に桃色を宛てるわたし。霧野のかわいさが目立ったのか、わーお似合いですね、なんて化粧の濃い店員さんがすぐさま寄ってくる。うそつけピンクより白の方が絶対似合うだろ!髪と服でちょっとしつこくなってるじゃない!恥ずかしそうに縮こまる霧野の背を押して、さりげなく店員さんを追い払いながらワンピースの棚へ移動する。

さっきから触るたびに霧野がびくつくものだから、ちょっと馴々しすぎたかもしれないとわたしも段々冷静になってきた。実際霧野とわたしはたまに喋るくらいのただのクラスメイトであって、普段であれば二人でショッピングなんて考えられないのだ。この20分あまり大脳辺縁系に従いすぎている気がする。でもロリ服をあてがわれた霧野はとんでもなくかわいい。荒ぶるのも仕方ない。だってやっぱり、本望だったのだ。

「うわ、高!」
「ワンピースだからそれなりにするよ。ひやかすだけでも楽しいでしょ」
「女ってそういうものか…」

あまり短いのはいやだという意見を聞いて、きょろきょろする霧野をよそに勝手に膝丈のをチョイスした。肩もラインもふんわりした白いそれとブーツも持たせて試着室におしこむ。彼は終始落ち着かない顔をしていて、まだ女装経験は浅いのかなと首をかしげた。初めてかもしれない。あんな様子じゃ地味ワンピをどうやって買ったのか気になる。通販だろうか。男からしたら異質なショップの空気にひとりで耐えたとは考えられない。恥じらいは大事な萌え要素ですけど。

暇なわたしはただ待つのも何なので、近くのアクセサリー枠をひやかすことにした。わたしでは到底つけられないような派手な数々はあまり売れていないように思える。レースとお花とプラスチック石のパレードは見ている分には楽しい。
シュシュに手をかけたあたりで、そういえば霧野の頭の装備品がただの黒ゴムひとつっきりだったことを思い出した。あの様子じゃなにも持っていないだろうから見立ててあげたくなくもない。嘘ですぜひ見立てさせてください。

ぱっと目についたカチューシャを手に取る。ちいさめの白い花とレースのついた、比較的この店ではおとなしめのヘアアクセ。そして脳内で髪を解いた霧野と手中のそれががっちり組み合わさってしまった。これは絶対かわいい。飾りもでかすぎないし、きっぱり趣味だと言い放ったわりにはやけに消極的な霧野もこれなら気に入ってくれるだろう。
気付けばわたしは無意識に財布の札を数えていた。今日は二次元のために貯金をたくさん卸してきたものだから余裕で足りる。足りちゃってる。レジへゼロヨンする勝手な脚が恨めしい。キャバ嬢に貢ぐおじさんの気持ちが多少どころか完璧に分かってしまった。

「みょうじー…?」

控えめに呼ぶ声が後ろから聞こえる。男だとばれるのが心底恥ずかしいのかいつもよりもトーンが高い。かわいいなーなんて余裕をかまして振り返った先で慣れないヒールにつんのめっているクラスメイトに、わたしは即座に言葉を失った。

やっぱり天使はいたんだよ。






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