狩屋

 

瞳子さんいわく、今日は立冬といって暦上では冬なうなのだそうだ。押しつけられたスコップと軍手を手に家の外に出ると、からっとした太陽が目に痛くてわたしは唸り声を上げた。ほんとうに冬なのか。秋ですらないぞこれは。

園の敷地にある畑では春夏秋冬さまざまな野菜が育っている。今日は毎年恒例、秋野菜の大収穫祭。中学生は大事な戦力として休みだっていうのにお手伝いである。
畑ではもうすでに朝の早いちび共が泥だらけになって騒いでいた。とりあえず軍手をはめる。何すればいいのかな。それなりに広い畑を見回すと、さつまいも畑の端に座り込んでぶすくれているマサキが目についたのでちょっとローだったテンションが上がった。

「かーりやくんっ」
「…なんだよ」

雷門サッカー部のジャージの袖を捲り上げたマサキはやたら不機嫌だ。暇なのでつけたばかりの軍手を外して彼の頬に狙いを定める。にきびのない肌は少し汗をかいていた。暑いから機嫌が悪いんだな、合点がいった後でも頬をむにむにするのはやめない。案の定いやそうな顔をしたマサキがわたしの手を振り払う。かわいい奴。

立派に実ったさつまいもは、つるを伸ばしまくって何やら厄介なことになっている。これを抜けばいいんだろうか。指示係の晴兄はさっきからじゃがいも区画のちびたちに付きっきりだし、風兄に聞きにいくのもめんどくさい。わたしもマサキと同じで暑くてやる気が出ないのだ。

「ちっさいのは元気だなー」
「あんただって昔はあんな…じゃなかったね」
「俺ここ来たの小5だっつの。てかひとつしか変わんないのに年上ぶるなよ」
「あんたそれ霧野に言えるの?」
「むしろ霧野先輩になら言えそう」
「うそこけ」

小5か、そうだった。威勢いいくせによく風邪引くわ夏バテするわで世話のかかるガキ、それがマサキであった。
足に上がってくるアリさんを払いながら焼きいもは食べたいんだけどなあとこぼすと、さわさわ風が吹いて葉がゆれた。掘ってくれアピールなのだろうか。こっちを掘るまでに働き屋さんたちが飽きなければいいんだけど。
「…もうむりあつい」「こら、軍手捨てない」叱るわたしも軍手はポケットにしまわれている。

「べたべたすんなよ、暑いっつってんだろ」
「マサキくん口わる」
「ねえまじ暑いからもう勘弁して…」
「だって園戻ったらばれるじゃんか、遊ぼうよー」

暑いなら半ズボンはいてくればいいのに。折り畳んだ裾から伸びる細い足。二人してだらしなく崩したジャージでスコップを放り出す姿は、みみずに目を輝かせる幼児には絶対見習って欲しくない。

何が悲しくて休みに午前中から畑仕事せにゃならんのだ。虫や野菜にはしゃげる年はもう過ぎてしまった。べたべたしたせいで加速した熱に二人同時にがくりと首を落とす。変な虫がこっちにきたのでマサキの方にやろうとすると、ふっと土に影が落ちた。

「こら、そこの中学生」
「っわあ!?」

体がぐっと浮く感触に思わず声を上げる。隣のアルトとハモってしまった。後ろからの襲撃なのでよく分からないが、小脇に腕を入れて持ち上げられたようだ。思わず固まっている隣のマサキは猫のようでかわいい。わたしも同じポーズをとっているに違いないのだけど。
もっとも中学生ふたりはさすがに重かったようで、片足が浮くくらいで止まった。「わ、重くなったなあ」へらへらした声と共に解放されてどさっと地面に落ちる。ひどい。振り返って睨んだ先には案の定赤髪の好青年。

「君たち、じゃれてないで仕事しろよ」
「じゃれてないし、愛でてただけだし!」
「じゃれても愛でられてもねーよ!」
「はいはい。焼きいも用の葉っぱ集めるから土仕事嫌ならおいで」

言うだけ言って、ヒロ兄はさっさと園の入り口辺りに行ってしまった。日光の当たる畑では相変わらずちびがきゃいきゃい騒ぎながらじゃがいもを掘り返している。向こうならうまく日陰に収まったまま手伝い出来るだろう。どっちにしたってめんどくさいことに変わりはないけど。
24歳のせいで汚れた尻やらを払って立ち上がると、こちらを見上げる金と目が合った。きょとんとしたその顔はいつもの目付きの悪さがなくて思わずきゅううっと胸が締まる。「えー行くの?」そのかわいい顔はすぐにだるそうに歪められてしまった。もったいない。

「あっちの方が多分涼しいよ。いこ」
「……ん」

どうして暑いのに差し出した手には飛び付くんですかね。数秒してから赤くなるのはどうしてですかね。やっぱり暑いんですかね。
それはどんぐりの葉っぱでも集めながらじっくり聞くとしよう。たとえ今は照れて手が離れたとしても、まだ冬は始まったばかりなのだ。


〜20120110


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