【DC夢】終身嘘つき | ナノ


▼ スコッチと

偽名は日色唯で、スコッチと呼ばれていたと名乗った彼は、今も私のマンションにいる。
というのも、元の飼い主のところには返せない事情があるためで。
彼の経過観察に来たファウスト先生曰く、すでに死亡扱いで何やかんや手続きが取られているので、戻ったところでそれを本当にされるだけじゃないか、とのこと。
ちなみにその見解は私も日色さんも同意見である。
しかしさすがの情報網。ファウスト先生パないっす。

というわけで、彼は私預かりになって、作業場であるマンションにいる。
幸い、私が書庫変わりにしていた部屋があったのでそこを使ってもらっている形だ。日色さんはそこに詰まっている蔵書を、毎日ちょっとずつ消化しながら過ごしているらしい。
伝聞になるのは私もまだ学生で、日中は作業場にいないし、たまに実家に帰っているから。
日色さんにはいくらかお金を渡していて、お出かけしてもいいよとは言っているものの、変装グッズが少ないうえに、そもそもあんまり出たくないらしいので出ていないんだとか。
かといってもうずいぶんとお日様を浴びていないし(世の中には狙撃というものがあってだな、とレースカーテンもあるが基本的にカーテン締め切り中)、どうしたものかと思い、ファウスト先生にこっそり相談してみれば、心因性のもので、もしかしたら外に出るのが怖いのではないか、とのことだった。
納得。
そういえば彼は命はいまだに狙われているし、更に手痛い身内切りをくらっているのだ。
で、目覚めた先で外に出なくてもいい設備。
命の危険がある組織に所属していた後死にかけてさらに身内に裏切られ、四方面敵になったところで安全地帯に入り込めば、そりゃ依存するよね。
大人としては複雑かもしれないけど、それまでがそれまでだったし、私の方も二人分くらいは問題なく養える程度の収入があるのでかまわないとは言ってあるし。
どうしたものかなと思っていたら、そのチャンスは簡単に訪れた。

「なあ、これの続編って置いてない?」

とある週末。ちょうど作業がひと段落ついて、リビングでのんびり休憩をしていると書庫から日色さんが本を片手にやってきた。
受け取った本の題名をみて、そういえば続きが最近出たものの買ってなかったなと思ってひらめいた。

「日色さん、一緒に本屋さんに行きませんか?」

やってきたのは近所の大型量販店。
いい具合の人込みなので、見られても埋没できるし、そもそも人が多いところの人の視界なんて足元がほとんどだ。
無難な格好と、ちょっとしたぶさメイクを施せば、日色さんは見事に周囲に埋没して見せた。一応、彼の目隠しになるように、私の方が目立つメイクをしている。私たちを見たら、私の方が印象に残るように。
平凡顔だが、これでも一応大女優の娘。要は目立つメイクをして、母の所作を真似すればある程度は目立てるのだ。
所詮平凡顔のつつましい努力なので、本物には勝てないが、彼の印象を薄める程度なら丁度いい。

「あ、これですね」
「おお。あ、これの次ってこれじゃないか?」

事前説明のおかげか、それとも長く家から出なかったことがある程度彼の精神を安定させていたのか、初めの怯え具合も落ち着いて、家での調子が出てきた日色さん。

「うえっ!?うはー、どれだけ買ってなかったのか、、、」
「諦めるか?ハードカバーだし、二冊もとか地味に高くつくだろ」
「、、、いえ、買いです。この際だから、諭吉が何人出てもかまいません。蔵書の続巻と面白そうな本はお迎えしましょう」

きりり、と早速見つけた本を書店ではなかなか見かけない買い物かごに入れて、次の本を探すべく周囲を見渡す。
隣では日色さんがちょっと引いた顔している。さりげなくかごを持ってくれようとするが避ける。
こんな目立つ物持ったら貴方が印象に残っちゃうんだよ。

「諭吉って、、、そんなに?」
「書店ではあんまり縁がないですか?私読みたい本があると際限なく買ってしまうので、割と出番多いんですよね。これでゲームとかしてるので、もっとかかるんですけど」
「あれ?ハードあるの?」
「わりと。外国産はないですが、国産ハード2種は、携帯器具も合わせてほぼそろってますよ」
「え、気づかなかった」
「そういえば、前の場所から引っ越してから箱から出してなかったですね。帰ったら出しましょう」
「どんなのがあるんだ?」
「主にRPGですよ。ばっさばっさとやりたいなら、戦国アクションなんかもあります。
携帯獣は一緒にしたいですねー」

なんてことない話をしながら、お互いに気になる本をどんどん詰め込んでいく。
最終的に詰め込み過ぎて流石に自重しようと、選別をし、それでも諭吉が3人旅立ったので二人してちょっとだけ笑った。
二人で分担して荷物を持って、余った手をつないで家路につきながら、日色さんがぽつりと話し出した。

「今日は連れ出してくれてありがとう」
「いいえ。ちょっとした気分転換にはなりましたか?」
「ああ。情けない話、一人では足がすくんで出れなかったんだ」
「情けなくないですよ。全く。、、今も怖いですか?」
「、、、すこし。だから、適度な時に、またこうやって一緒に外に出てくれるか?」
「よろこんで」

自分の目線より高い位置にある不安そうな顔に笑いかけて、握った手に力を少しだけ込める。
日色さんはすこし安心したように笑って、前を向いた。
小さく、本当にありがとうと呟いた彼の声が少し震えていたことには、気づかないふりをした。

さて、無事に家に帰り、しっかり手を洗い、書籍を本棚に収納してから、真っ先にしたことはしまい込んだゲームハード達をリビングに出し、セットすること。
そこからスマッシュでブラザーズしたり、レースをしてバナナを投げたり甲羅を当てたりして、買った本たちを読みだすのが大分後になってからだったのは当然の帰結だったかもしれない。
ただ、日色さんの笑顔が格段に増えたことだけは確かだったので、よしとするのである。

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