【DC夢】終身嘘つき | ナノ


▼ スコッチと

「なあ、なんか最近あわただしくねえか?」
「あれ?言ってませんでしたか?今週末に日色さんはお引っ越しですよ」
「なにそれ聞いてない」

言ってなかったのね、ごめんなさい。

改めて事の次第を説明する。

簡単に言うと、以前からお世話になっている老婦人(旦那さまは故人。良い方だった)に、お家とその裏の山を譲られたのだ。

私がまだ成人していないので正式にはまだ自分のものではないが、後に成人になるのを待ってから彼女の弁護士と手続きに移る予定である。ただ、山も含めた家の管理は業者に頼むとお金がかかるので私がする。
実はこれも一応譲渡の条件になっていて、うまく管理できなかった場合は、譲渡不可として弁護士によって家と山は売却される。
しっかりと管理されているうちは、売却はなし、規定の歳に達したら譲渡手続きに移る、というのが弁護士の立ち会いのもとで、婦人と私との間に交わされた約束だ。
それで、いい機会だしと私の生活拠点を実家からそこへ移すのと、ついでに日色さんも一緒に移ってもらおうという算段である。
将来的には制作拠点もマンションから移すつもりだ。それは、正式に自分のものになってからだけれども。

「場所はどこなんだ?」
「都心から結構離れます。そもそも23区ではないですね」
「それはまた結構離れるな、、、」
「ここはまだ米花町に近いですから、なるべく距離をとってほしいんですよ」
「、、、いつも思うんだが、やけに米花町を毛嫌いしてないか?」

そんなに自分の地元の町が嫌いなのか?と不思議そうに尋ねてくる日色さん。
疑問はもっともだ。

「毛嫌いしているわけではないんですが、私の犯罪巻き込まれ率でもっとも確率の高い町が米花町なんですよ。ちなみに次は杯戸町です」

まあ事件吸引機(弟)の行動範囲内の街なので、犯罪率が上がっていると勝手に思っている。事件吸引機だなんて失礼が、長年の経験は語る。
なんで事件も何も起きなさそうな、ドのつく田舎に旅行しても殺人事件がその場で起きるんだ。おかしいでしょ平穏をください。
本人にその気はなくてもそんなものだと勝手に思っている。我ながら酷い姉である。

「あーなんかわかる気がする。ニュースの殺人系ってだいたいそこ辺だもんな」

ご近所さん率高すぎて困る。にこにこしながら飴をくれたおじいちゃんの凶悪な一面なんて知りたくなかった、なんて何度思ったことか。

「でもいいのか?まだ高校生だろ?」

ああ、それはですね、、

「えーと、、高校生ではなくなりました。実は晴れて社会人なんです」
「は?!」

かぱっと口を開けた日色さん。顎を支えてもどしてやると、ぺちんと手をうっとおしそうにはたかれてしまった。ジョークなのに。

「大検を取得しました。それで高校を中退しました」
「おお!?、、ん?、、でもよ、お金の問題もあるだろ」
「お金については、ありがたいことに仕事が程よく安定してきていますから、問題ありません」
「いや、それはすごいことだが、ご両親的には問題ありまくりだろ、、、」
「私も両親も、もともと実家にあまり居ませんでしたから。家を出ること、大検についても、あっさり承諾を得たので、こちらも問題ありません」

お金持ちの思考回路ってやつなのか?常識って、普通ってどこに行ったんだ、、、。
ついに頭を抱えてしまった日色さん。あなたの存在が正直常識の範囲外(潜入捜査官とか黒の組織とか、異常な回復力にイケメンでスパダリとかどこの二次元)なので、貴方に常識は説けません。
思っても口に出さず、淡々と日色さんの引っ越しの作業をする初穂。

「ん?そう言えば俺は?って言ったか?」

混乱からどうやら立ち直ったようだ。意外と復活が早い。

「ええ。私も基本拠点は引っ越し先に移す予定ですが、早い時間に米花や周辺で仕事があったりしますし、私にも友人がいますので、この作業場は解約せずに残して、行き来する形をとります。
貴方は死んだことになっていますし、私の友人に会わせるわけにもいかないでしょう?」
「なるほど。ってか今までどうしてたんだ?」
「外で会うようにしていましたよ。仕事部屋が長期の仕事で汚すぎて、人を入れるの恥ずかしいからって」
「、、、すまなかった」
「それも別にかまいません。友人も忙しい人たちですし、そもそも機密になるようなものも置いているので、今までもあまり家には上げていませんでしたから。そんなに気にした風ではありませんでしたよ」
「そっか、、」

先ほどの元気はどこへやら、少しだけしゅんとしてしまった日色さん。成人男性がそんな態度をして、ちょっとかわいいとか恐るべしイケメン。
そんなこと考える余裕があるくらいにはこのイケメンに対する耐性がついたのか、はたまた無駄にイケメンな爆処理班の二人のせいなのか。
全部だな、と脱線した思考回路を隅に追いやって、目の前の少し硬めの髪の毛をかき混ぜる。

「わっ、おお、、、?」
「私が貴方を拾ったのは確かに不可抗力でしたが、面倒見ると決めたのは私自身です。そこは不可抗力なんかじゃありません。ですから、そんな顔する必要は全くありません」
「、、、時々思ってたけどさ、初穂ちゃんってすっごく漢前だよな」
「失礼な。、、確かに、今までが今までですから確かに乙女とは言いがたいですがね」

驚いた顔は抜けていてかわいらしいものの、すぐに苦笑いに変わる日色さん。解せぬ。
普通の乙女は血濡れでぐったりしている成人男性を拾って介抱はしないし、養うとまで言わない。自覚はあるが後悔はしていない。
、、、こういうところが漢前って言われるところなんだろう。もう一度言うが解せぬ。

「でもそうですね、、、ただ養われるのが悔しいのでしたら、助手をしていただけませんか?」
「助手?」

基本的に作品は手を借りずに作っている。その制作の様子を拾われてからずっと見ているので、何を手伝えばいいのかわからないといった様子だが、手伝ってほしいのはそこではないのだ。

「ええ。ここしばらく私の様子を見ていてくださって、なんとなくわかっていらっしゃるとは思いますが、私は集中すると寝食忘れて没頭しやすい性質なので、、、」

要は体調管理と現実引き戻し係をしてほしいのだ。
合点がいったという様子である。

「そんなことでいいのか?」
「ええ。それだけだと気後れするというなら、私不在のお家の管理と山の管理をお願いしたいです」
「わかった」

なかなか吹っ掛けたと思うのだが、二つ返事で了承を貰えた。
ハウスキーパー兼助手ゲットだぜ。ありがたや。

「助かります。よろしくお願いしますね」

にっこり笑って、固い握手を交わした。

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