【DC夢】終身嘘つき | ナノ


▼ 2回目のXDay

それは定期検診で米花中央病院を訪れたときのこと。
たまたま通りがかった院内のイベント会場で、あからさまにこの場の雰囲気に不釣り合いな変なおじさんと、その手荷物が目についた。
なんで紙袋を水平を保つように持って、この人ごみのなかをわざわざゆっくり歩いているのか。
なんで顔を見られたくありませんと言わんばかりにコートの襟を立てて帽子を目深にかぶっているのか。しかもそのコートは不審者の代名詞のトレンチコート(灰)。全裸のおじさんが前をがぱあとかしちゃうあれである。
そら恐ろしいことに、周囲の人々はこれだけ浮いているにも関わらず怪しいともなんとも思っていないようだ。危機感どこいった。あんまりにもあからさまな不審者だろ。
そしてその不審者はしれっと紙袋を置いて足早にその場を去っていく。ますます怪しいし、嫌な予感がする。

ちょうど一年前のことを思い出している最中のことだったので、外れてほしいけどと思いながらその人が完全に去ったのを確認し、そっと紙袋を覗き込んだ。


、、、思わず空を仰いでしまう。
覗きこんだ袋の中で怪しく光るデジタル時計は、ここ最近かかわりたくないものの思いがけず関わりがとても多くなってしまったもので、自分のみならず周囲の命にも関わる、ものすごくまずいものである。
とってもとっても関わりたくない。のーせんきゅーすぎる。しかして悲しいかな、これはまさに去年の今日関わったと思われるそれと恐らく同種、つまりその対処を知っている数少ない人物が自分であることも重々承知していて。
その理由から、不審者がいましたなんか置いてどっか行っちゃったと110番して普通のお巡りさんに放り投げる選択肢はなくなったのである。

とりあえず冷静に。そう冷静にだ。
携帯を取り出してある人を呼び出す。勤務中だろうけど、出てくれないだろうか。
ほどなくして途絶えた呼び出し音と目的の人物の声に安堵する。

「もしもし?」
「珍しいなーこんな時間にかけてくるなんて」

一年前に知り合い、今では気心の知れた彼、、、萩原さんの陽気な声はこんな事態において心強く感じる。
冷静にと思いながら、うるさい心臓をおさえ努めて落ち着いた声を出した。

「かけざるを得なかったんです。萩原さん今どこですか?私と一緒で検診で病院とか来てたりしません?」
「ん?まだ職場だけど、、なんかあったの?」
「あったといえば、まあ。萩原さんの領分の品物が」

電話の相手、萩原さんは警察官である。
去年事件を通じて知り合ったのだが、その彼はただの警察官ではなく爆処理班、、、機動隊所属の爆発物処理班の一員であった。
そしてその彼にかける必要がある品物。不審者がしれっと置いていった紙袋の中身は爆弾とおぼしきものであった。

「、、、詳しく教えて」
「見た感じと私の勘ですが、去年の今日私たちがぶっ飛んだのと同じっぽいです。同じだとして、とりあえず振動が怖いので動かしてません。同じ理由で110番通報もまだです」

警察に不審物があったと知らせた場合、それがイベント会場だったりするとどこか人目につかないところに移動させて中身を改めようとする人がいる。
これが正に爆弾で、そして去年私が関わったものと同種として仮定するなら、その振動は致命的だ。なぜなら振動が伝わることにより爆発を可能にするスイッチが組み込まれているから。
よしんばその場で改めたにしても、爆弾であるならなおのことこの会場から移動させる。そして移動させることを使命とした警察に、子どもの移動させるなという相反する言葉など介入する余地はない。

「よしそのまま触っちゃだめだよ。場所は?」
「米花中央病院の中庭。今日はイベントしててちょっと人が多いですね。動かすの難しいかも。タイマーはまだ動いてません。動いたとして表示タイムは30分」
「了解。精鋭引き連れてすぐ行くよ。初穂ちゃん、悪いけど、、、」
「わかってます。揺れないように、誰も触らないように見ています」
「頼むよ。、、、、ごめんね」
「、、、怖いけど、ちゃんと待ってますから早く来てくださいね萩原さん」

ぷつりと切れた電話。画面を操作する自分の指が震えているのは気のせいではないだろう。
思考はマイナスに走り出すが、とにかく今は自分の出来ることをするしかない。これを、見張ること。
震える体を携帯を握ることでごまかして、大急ぎで来てくれるであろう彼を思った。

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