「愛」 高村視点 2
学園中の生徒で、俺と立科との間に昨日起こったことを知らない生徒はいないだろう。大部分の生徒があそこにいて、見てはいなくても、知られないはずは無い。
俺が立科に犯されたことを。
でも、俺はそんなことがあったなんてなかったかのように、次の日も学校に行った。
打ちのめされていなかったといえば、嘘になるだろう。
今も無理やり貫かれた下半身は鈍い痛みに支配されている。屈辱で眠れもしなかった。
だが今日登校しなければ、俺はもう二度と登校することができなくなるだろうと思った。
あんなことはなかったことにしなければならない。気にしている振りさえみせてはいけない。
案の定誰も昨日のことは言わない。俺の友人だったはずのやつらも、何事も無かったかのように振舞ってくる。
俺の完璧な人生に、あんな汚濁はなかったことにしないといけない。
いけないのに。
廊下で立科とすれ違った瞬間、周りの空気は凍えた。
そして俺はすれ違い様に腕をつかまれ、壁に叩きつけられた。そして皆いなくなった。
俺に唯一の弱点があるとしたら、それは暴力だった。
母親に虐待されて育った俺は、手を上げられると、身体がすくんで動かなくなってしまう。
泣けば泣くだけ、叩かれた記憶は無くならない。
立科が俺を叩きつけた時点で、もう俺の身体は強張って、抵抗と言う言葉を忘れてしまう。立科の手が俺の身体を這い回っても、立科の性器で俺の尻を犯されても。
硬直し、冷え切った身体では、ただでさえ受け入れる場所ではない身体が傷つき血を流す。
それでも俺は何も無かった振りを続けた。みなもそうした。
それでどのくらいたっただろうか。俺が立科にもう何度か判らないほど犯されたのは。
身体は征服しても俺の心は決して崩せないのが、余計に立科を苛立たせていた。
でもそれは立科の勘違いで。俺はもうこれ以上なほど疲弊しきっていた。平気なように見えたのは、ただの外見だけで。
俺を散々に陵辱した立科に復讐がしたくてならなかった。
俺の真っ白にすべきだった人生にこれ以上ない泥を塗ったあいつに。
何も持っていない俺ができることといったら、あいつが執着する俺を消すことだった。
生まれ変わって、今度こそ真っ白で、愛される存在に生まれ変わりたかった。