「愛」 高村視点 1
高村 蛍(たかむら けい)
立科 律耶(たてしな りつや)
高村視点になります。
信じられなかった。ここは食堂で、何十人、いや、何百人も生徒がいる。
なのに、どうして俺は、こんな大勢の人間の前で、同じ男に犯されているんだ?
誰も目をあわせようともしない。みな、こっちを見ない。まるで俺と立科が存在しないかのように、振舞う。
俺の友人たちだったはず数名は、次の授業の準備があるからと立ち去っていった。
分かっている。これが俺と立科の差だ。
全て、俺は立科に負けているものは無いと思っていた。全てのおいて同等と呼ばれるだけの実力をもっていたはずだった。
ただ俺に無いものは、生まれ持った権力。立科にはそれがあった。
俺を崇めていたやつらも、最後は立科に家の力には逆らわない。こうして見殺しにされる。
俺の人生はこんな負け犬で終わるわけにはいかないんだ。
俺は、生まれがもうすでに負け犬だった。暴力を振るう母に、父親も誰だか分からない。
気がついたら施設にいた。
両親がいない、施設育ち。それだけで虐めの対象だった。
そうされないために、俺は常に完璧でなければならなかった。
勉強もスポーツも、何もかも。
この学園でも常に、立科と首席を争った。
だが俺は立科のことを嫌いではなかった。首席を取られることもあったが、良いライバルで友人になれたらと思っていた。
だが、立科が俺に求めたのは友情ではなかった。それは恋慕だった。
立科は俺に雌になれと言っているようにしか、思えなかった。そんなつもりはなかったのかもしれない。
だが、俺の人生の中には同性愛なんてものはありえない。
俺を捨てたやつらを見返してやれるくらい、俺は自分の人生を成功させなければいけないのだ。
その俺が同性の恋人を持つなんてことはあってはならない。人に後ろ指を指される、そんな要因は一つたりとて持っていたくなかった。
せっかくいい友人になれるかと思った立科とは、恋愛感情をもたれた時点で、そうもいかなくなってしまった。
しかし、俺はできるだけ彼を傷つけないように、配慮して断ったつもりだった。
だが、立科は柔らかくだが俺が拒絶したことを許してはくれなかった。
俺を支配しようとする目に、俺はずっと気を使いながら、立科に接していた。だが絶対の俺の拒絶に、このあり様だ。