壊してしまうことが、竜にとっての愛情表現とでも言うのか?

竜たちは契約することによって、騎士たちの願いをかなえてくれる。本来なら北方大陸から一歩もでない竜たちは、騎士に連れ添いこの国にやってきてくれ、騎士が望むようにこの国を守ってくれている。

おかげでこの国は侵略されることなく、平和を保っていられる。
それらの代償が竜騎士の精神や肉体の疲弊によって、短い命だったとしても国にとっては安い物だろう。毎年数百人を生け贄に差し出し、数名は騎士として戻ってくるのだから。



士官学校の生徒たちは一斉に北方大陸に赴く。ただし、皆ばらばらになって移動する。個人行動は少ないが、団体行動を取ると災害時に大多数が一斉に死んでしまうのを避けるために、2〜3人ほどで行動することが望ましいとされているのだ。

北の端にまで行くのは何ヶ月もかかる、その間ずっと二人きりだった。長い年月友人だったグレハムとはずっと一緒にいたがこれほど46時中顔をつき合わせていたのは初めてだった。
それでも、これほどお互い口をきかないで、ただ黙って一緒にいたのも初めてだった。
グレハムはどうやらサーレイは竜騎士になるのを止めることを説得するのを諦めたらしい。出発する前はあれほど説得し、一緒に逃げようといったくせに今は何も言わない。


「お兄さん達、本当に山に行くんかい? 毎年私は何人も見送っているが、戻ってきた子たちは本当に少ないんだよ」

最北端の人が住んでいる最後の地までやってきて、サーレイとグレハムは宿屋の主人にあいさつをしていた。

「分かっていますよ。でも、先輩たちも皆逃げなかったんでしょう? ご主人がそう忠告しても」

「そうだねえ……サーレイ君とグレハム君は戻ってこれるように祈っているよ」

「ありがとうございます……」

同級生たちも数人この宿屋にいたのを見た。お互いそれほど会話はしなかったが、皆逃げることなくこれから山に登っていくのだ。

どこに竜がいるとも知れないし、出会えないかもしれない。出会うまでに厳しい山の自然で息絶えるほうが多いかもしれない。

竜騎士がどういうものか知っているサーレイが騎士になりたくないというのは、説明すれば理解してもらえるだろう。しかし真実を知らなくても、わずか数名〜十数名ほどしか戻って来れない生存率を考えて、逃げ出さずに立ち向かおうとする彼らの気が知れなかった。

生きて戻ってこれる確率のほうが遥かに少ないのだ。勿論分かっていて士官学校に入ったはずだ。でも、こんな直前になっても誰も逃げ出さない。
誰か逃げ出したら、サーレイも国への忠誠など忘れて一緒に逃げ出すことができるかもしれない。

と思い、ふと笑えてきた。自分には国への忠誠などあるのだろうか。騎士になると言われ、それ以外の未来などは自分にはなかった。だが、そう決められていた未来があっただけで、サーレイには国への忠誠心など、兄があの竜と交わるのを見た時からほとんどなかった。
では、なんのために行くのだろう。家族のため、マリアーナのためのはずだった。


「グレハム……兄は発狂している」

「知っているが?」
そう、グレハムもそれくらいは知っている。何を今更と言うように訝しげな顔をした。

「マリアーナも、自分の未来を犠牲にする……マリアーナの産む息子たちは、死ぬか発狂するかの未来しかないだろう」

父のように能力がないと判断されて生き残れれば良いだろうが、本家に生まれた以上はそんな恥を曝すくらいだったら、この山脈の中で死んで来いと言われるだろう。
この家に生まれた男子も女子も、とても幸せになれるとは思えない。

だが、兄も妹もその運命から逃げなかった。死んでいった叔父たちもそうだろう。
サーレイの運命もこのまま竜騎士になって、国を守って、そのうち精神が壊れて死んでいくべきなのだろう。
そう山の中の険しい道と呼べない道を歩みながら、グレハムに話しかけた。


「皆は知らないが、俺は知っている……竜と契約をすると、俺は竜の物になる」

「それが契約だろう? 生涯を竜に捧げるのが竜騎士の役割だ」

「……その中に、竜と交わる必要があるとまでは知らないだろう?……人間じゃない異形の者と交わるんだ。精神がおかしくなるのも当たり前だ。絶えられなくなってせっかく竜騎士になって戻ってこれても、すぐ死んでしまうのも納得だろう?」


そう笑って真実を告げると、グレハムは黙ったままジッとサーレイを見つめてきた。

「それで?……お前は、自分の未来を分かっていてそれでも進むのか?」

「仕方がないことだ」

「俺は、お前をたとえ竜とは言え、渡したくは無い」

「……」

「お前を、俺以外に誰にも抱かせたくない」

それはサーレイも同じだった。グレハムをそんな目に会わせたくない。


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