両親が双子の兄に比べ遥に対して徹底的に無関心なのは、遥が生まれた時からだろう。勿論生まれた時のことなど覚えているはずはないが、そうであろうことは容易に想像がつく。

自分がこんなふうに病院にも行かず、兄にされていることも察しもしない。病院に行かないのは、この身体に残る痕跡を診られることを危惧してのことだった。医者もまさか相手が兄だなどとすぐに疑ったりはしないだろう。ただ遥の身体が特殊なこともあり、痕跡があれば身内を疑うかもしれない。

疑われずとも両親に性行為をした形跡があるなどと報告されたら、どんな目で見られるかなど分かり切っていた。きっと自分の言い分など聞かず恥さらしなことをするなと罵られるだろう。俊也とのことは遥が口にしない限り、ばれることはない。

誰が兄弟同士で交わっているなどと想像するだろうか。少しは家庭に目を配っていれば気がつくかもしれないが、あの両親にはそれはない。

だから律が恐れるのは、一つだけだった。昔から両親に愛されていないことは分かっているが、これ以上冷たい目で見られるのは嫌だった。

だが何よりも、もう一人の兄だけには俊也とのことを知られたくない。
ただそれだけの想いで、自分は俊也に従っているのだ。


「遥?どうした?」

「別に」

別になんでもない。なんでもないと思って、こうして兄に抱かれている。だんだん平気になってきたかもしれない。どうせこんな身体、他の誰も触れやしないのだ。将来恋人ができるわけでもないし、結婚もできない。もうこんな身体兄に汚されたところで、どうってことはないだろう。

兄が再びのしかかってきても、もう拒絶もしない。意味がないから。
その首に腕を回し、キスを受けたほうが早く嫌なことが終わる。
潤一も両親も不在で、拒否する理由も見当たらない。

「痛いか?」

「平気……」

「嫌か?」

「別に……どうしてそんなこと聞くの?今まで何言っても聞いてくれなかったのに」

「抵抗しなくなったからだ」

「無駄なことするの止めたんだ」

そう吐き捨てるように言うと、兄は弱冠顔をしかめた。少しでも罪悪感があるのだろうか。ただこの兄はこんな顔をしていても相変わらず秀麗な面差しは変わらない。

「これでもお前のことは可哀想なことをしていると思っているんだ……ただ思っているだけだけれどな。変わらずお前を抱くことを止められない……俺を受け入れくれるのなら嬉しいが、そうでないなら…憎まれたほうが良い」

「意味分からない……何それ」

もう良いから早く抱いて、終わってくれればそれで良いのに。

「遥、お前を初めて抱いた時のこと……覚えているか?」

忘れるはずはない。あんな悪夢、夢と思って忘れたいくらいなのに。たった一度のことだったら、きっと自分は兄を許し何事もなかったかのように振舞っただろう。

夢だと思い込んで、忘れたふりをして、また何時もの中の良かった兄弟に戻れたはずなのに。
こんなふうに繰り返されたら、忘れることなんかできるはずはない。


「お前に嫌だと言われた時……どうしようかと思った」

嫌だと何度も言った。何をされようとしているのかよく分かっていなかったが、それでも本能で兄を恐れた。

兄弟とはいえ物心ついて以来見せたことのない裸を見られることはなかった。この身体を畏怖していたから、幼いころから兄たちにどうしても見られたくはなかった。子ども心にも自分が何か違うとずっと感じていたのだ。

なのに俊也は遥の全てを暴き、食いつくした。
自尊心も倫理観も剥ぎ取られ、ただでさえ汚らわしい自分の身体が更に疎ましく感じた。

「止めてくれる気にでもなった?」

嫌だと何度も言ったのに、躊躇すらしなかった。どうしようかと思ったなんか嘘に違いない。そんなふうに思ってくれるのなら、どうして今があるんだろう。今どんな格好で向かい合っているか分かっているのだろうか。

「いいや……酷い兄だとは分かっている。これでも何度も考えたんだ……こんなことをすれば遥は、きっと泣くだろうって。お前が自分の身体を嫌っていることも分かっているのに……それなのに、兄の俺に抱かれることなどお前にとってどれほど許容しがたいことか、分かっていた」

「今頃なんで?……」

何で今頃こんなことを言うのだろう。今までずっと遥が、ずっと言ってきたことなのに。
どうして兄弟なのに。赤の他人に汚されるよりもずっと汚い。自分がこの兄に抱かれるたびに、身体がどんどん腐っていくように感じる。なのにこの兄はそんなことを微塵も感じさせない。弟を抱いているのに、少しも汚れも感じさせはしない。


「優しい兄の一人でいれば良かったと思っているんだろう?でもできなかった。遥、お前を愛しているから、俺には禁忌なんてどうでも良かった。兄弟だから何なんだ?何が悪い?」

「俊ちゃんはそれで良いかもしれない!…でも、俺は」

それ以上言う前に俊也が再び遥の中に入って来た。唇を噛んでその瞬間に耐えた。何時まで経ってもなれなくて気持ちが悪かった。

「そうだ、俺は誰に何を言われたって何とも思わない。弟のお前を抱くと決めた時から、常識なんてどうでも良くなった」

突き上げられる衝撃で何も言い返せない。

「遥、お前はそうやって大人しく俺に抱かれていれば、そのうち俺が飽きると思っているだろう?好きにさせておけば、終わるとでも……でも、無駄だ」

分かっているんだ。兄は遥の考えていることなど。

「遥、俺は……もう狂っているのかもしれない、実の」

言い掛けると、俊也はドアの向こうを凝視した。遥も兄の視線を追うと、はじめは小さな足音が聞こえたが、それがだんだんこちらに向かってくる。潤一は模試で夕方まで帰らないはずだし、両親は相変わらず不在だ。戻ってきたとしても、潤一は俊也の部屋には入ってこないし、両親は子ども部屋のある二階に上がってくることもない。

一瞬硬直したがハウスキーパーだろうと、力を抜いた。彼女らは廊下の掃除はするが、三人の部屋は各自自分で掃除をすることになっているため、入ってくることはない。
そのまま通り過ぎるだろうと思った瞬間、ドアが開いた。

「俊也、貴方に頼みたいことが……貴方達、何をっ!」




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