*SWEET DREAMの後にあたる時系列です。
まだ結婚していない頃の話になります。




酷い目にあった。言葉では言い表せないほどに。

部屋に備え付けられた浴室に向かった。個室に浴室までついているのは地位が高い証拠だったが、今はそれはとても有難かった。
こんな体は誰にも今は見せられないだろう。

昨日……いや、今日でもあるか。俺はユーリに陵辱された。先ほどまでずっとユーリのものを後ろに受け入れさせられていた。
どうしてこんなことになってしまったのだろうか、分からない。
彼の真剣な想いに報いるために、誰にも言うつもりのなかった想いを告げた。
それがどうしてこんなことに……少しでも動くと一晩中ユーリを受け入れた後口から、ユーリの残滓が流れ落ちていく。
たった一晩でこれほど彼が変わってしまうとは思いもしなかった。指一本触れようとしなかった紳士的な態度から豹変して、自分に陵辱の限りを尽くした。

ユーリは散々孕ましたいと言っていた。けれど、たった一晩のことだ。まさかたった一晩のことで、ユーリの子を身篭ったりはしないだろう。ユーリは魔力が非常に高く、その点だけを取ってみれば身篭りやすいだろう。しかし俺もユーリほどではないが魔力は高い。その魔力の高さしか今は縋るものがなかった。
俺を犯した男の子どもなんかを、この身に宿したくはない。

どうせ結婚なんかするつもりはなかった。だから、純潔を失ったからといって嘆く必要なんかないはずだ。妊娠していなければ、今日のことは忘れて生きていこう。

翌日もユーリは来た。
その翌日も……公爵家に伝わる秘薬というのを用いて、俺の身体を変えようとしていた。
ユーリ曰く、使いすぎるのは危険だからユーリを受け入れるのに負担がない程度にしか使わない、と言っていたが、それでも自分の身体がユーリに変えられていく恐怖で一杯だった。


実家から縁談が来ていた。侯爵家の次男なので俺自身は跡を継ぐ心配はない。俺は結婚するつもりはなかった。
しかし侯爵家の出と高い魔力を買われ、婿に来て欲しいという申し出は後を絶たない。嫁に来て欲しいというのは、一件しかなかった。魔力の高さを考えれば、婿にというほうが圧倒的に多い。この国で俺が嫁になれるような相手は10人にも満たない。そしてその相手も結婚しているのが大半なので、相手としては実は公爵家の兄弟しか該当しない。

嫁にと申し込みがあったのも、実は隊長の嫁にということだったが、当然断わろうと思っていたし、断わる前に流れたが。
隊長の両親からの打診だったが、隊長自身に全くその気がなく、進むものも進まなかったらしい。そんな話があったことも彼は知らないだろう。
そんな彼と結婚しようとも思わないし、俺は隊長を補佐できるだけで充分だった。

けれどこのままユーリに関係を強要され続けたら、いずれユーリのいうように子どもを孕んでしまう危険もある。
止めたいが、俺にその力はない。
いっそこの汚れた身体を隠して、婿にでも行こうか。そうすれば流石のユーリも諦めるかもしれない。
今まで受け取らなかった見合い映像を両親から受け取り、誰でもいいから結婚しようかと思った。

片っ端からお見合いをすると両親に返事をして、仕事に向った。
何時ものように隊長の補佐としてする仕事は多い。
同じように仕事をこなす隊長を見ながら、見合いなんてしなくても、彼に助けを求めれば終わるのではないかとは思った。あのユーリも兄の制止があれば言う事を聞くかもしれない。
しかし、ユーリはどうやら兄にたいして敵対心があるのでそれも無駄かもしれない。公爵家で次男の醜聞が出るくらいなら、俺を抹殺したほうが早いだろう。ユーリがしたことはことが露呈すれば、王族の一員だろうが死刑に値する。だが公爵家なら息子を守ろうと決まっている。
隊長もきっとそうだろう。

公爵家は恐ろしい家だ。今まで、誰一人として罪に問われた人間はいない。あれだけの魔力を持った一員だ。その力に任せて、誰かしら法を破る人間はいるはずだ。ユーリのように。
だが一人としてそういった人間がいなかったとされているのは、法を捻じ曲げるだけの知られていない魔法があるのだろうと言われている。ユーリが持っている独自魔法精神制御魔法も、彼の持つ独自魔法の一つにしか過ぎないだろう。もっと人に言えないような下劣な独自魔法を所持しているに決まって言る。

だから隊長に助けを求めたとしても、俺なんかよりも家のほうを守るだろうし、無駄なことだ。それに隊長だけには俺がされていることはどうしても知られたくない。

「……隊長、しばらく宿舎ではなく、実家に戻ってもよろしいでしょうか?」

「何かあったのか?」

通常、隊長や副隊長にもなれば、余程の事情がない限り官舎に住む。勿論結婚していれば別だ。だが独身の場合は、緊急時に備え、宿舎で寝泊りをする。

「……その、結婚の話が進んでいて、家で打ち合わせする事や顔合わせをすることが多くなるので」

「そうか。別に構わ」

「兄さん、少しクライス副隊長を借りれますか? 俺の副隊長が奥さんが出産のために、産休を取っちゃったんですよ。彼がいないと、俺隊長に就任したばかりでしょう? 書類の事何も分からなくって。クライス副隊長に教えてもらえたら助かるんですが」

「ああ、そうか。クライス、少し弟を手伝ってやれるか?」

「…はい、勿論です」

勿論拒否したかったが、何の理由もない。頷くより他はなかった。
部屋を出ると、すぐ隣の控え室に押し込まれた。

「何をっ」

「そんな声出して、兄さんに聞かれても良いのか?」

俺はそれだけでもう抵抗はできない。ユーリが俺の服を脱がしていき秘薬を俺の後ろに塗りつけ、ユーリが自分の前だけをはだけ同じように陰茎に秘薬を垂らすのを、ただ見ていなければいけなかった。
今日は何時もよりも薬の量が多い気がする。

「ああ、量が多いのが気になるのか? お仕置きだ、クライス」

「っ…はっ」

大して慣らしもせずに、性急にユーリは繋がって来た。

「昨日も俺のもの銜え込んでくれていたから、大丈夫だろ?……段々俺のを覚えてきたね?」

微妙に口調が変わるので、ユーリが怒っているのを感じた。彼がこんなふうに話すときは怒っているときか、高揚していて本心が出ている時かのどちらかだ。でも、今はユーリが怒っているのだとは分かる。

何もしていないのに何でだ? むしろこんな扱いをされて怒るのは俺のほうだろう。

「クライス……俺がこんなに愛してるのに、俺って男がいるのに、よくも見合いなんてしようと考えたな?」

「どうしてっ」

「どうして知っているかって? 馬鹿だな。俺が愛するクライスのことで知らないことなんて何もない……ねえ、教えてよ。兄さんが好きで、誰とも結婚しないって言っていたのに、今度は誰とでも結婚するって?……そんなことをこの俺が許すとでも思っているのか?」

ほんの今朝のことなのに、ユーリがどうやって知ったのか。分からないけれど、ユーリなら部屋を盗聴する事も容易だろうし、できない事はないとすら思える。

「ねえ、何処の誰とでも良いんだったら、どうして俺と結婚してくれないの?」

俺を無慈悲に犯しながら、愛を語り、求婚する男と結婚するわけがあるか。

「言っただろう! お前とだけは結婚しないって! 人を強姦しておいて、結婚なんか本気でしてもらえるとでも思っているのか?」

「だからそれが納得できないんだよ。俺が兄さんと似ていることは、どうしようもないことなんだ。そんな理由で結婚してくれないなんて、俺が諦められるとでも?」

「今はそんな事が理由じゃない! お前がっ! 人の意思を無視して、強姦するような男だからっ」

だから絶対に結婚したくないんだ。
何でこんなに怒っている最中なのに、こいつは人の中で達することができるんだろう。最悪だ……隊長が隣にいるのに、中に出された。
この始末をどうしたらいいんだ。ユーリの精を受けたまま仕事なんかできるわけないのに。

「見合いは断わるんだ。いや、俺が相手を殺しておくから、見合い自体がなくなるから大丈夫だよ」

「い、いい加減にしろっ!」

「俺のクライスと見合いをしようなんて、殺されて仕方がないだろう? ああ、何もそいつらが悪いわけじゃない。悪いのは俺から逃げようとしたクライスだ……俺に殺させるクライスが悪い」

この目は……俺を魅入ろうとする目だ。ああ、俺が魔力が強くなかったらとっくにユーリの人形になっていただろう。
そのほうがこれほど苦しまなかったかもしれない。ユーリの快楽人形になってユーリの意のままに動く人形になれていたら。

「駄目だ……俺のせいで人を殺さないでくれっ」

「罰だって言っただろ? 見せしめだよ。勿論クライスにね……他の男と結婚なんて二度と考えないようにね」

「もう分かった!! もう充分すぎるほど分かったから! だからっ」

仕事中に俺は一体何をしているんだろうか。全裸で男の精を腹の中に残したまま、犯した男に懇願しているなんて。

「……クライス、本当に美しいね。どんな顔をしても……凄く見惚れてしまうよ。特に、そんなふうに俺に抱かれた後の哀れな顔は特に……どんな願いでもかなえてあげたくなるな」

「だったらっ……」

「キスしてくれたら、殺さないでおいてあげる」

キスなんてもう何度もされている。勿論俺からはしたことはないが、今更惜しむ物でもない。俺の身体の中でもう惜しむ部分なんて何処にも残っていない。全部この男に侵食をされている。

ユーリの服を掴んで引き寄せ、キスをした。

「違うよ、クライス。勿論君からのキスは嬉しいけど、こっちじゃない……さっきまでクライスを愛していた、ここにして欲しいんだ」

俺の中で達したはずなのに、猛々しく隆起しているそれに口付けろと強制する男に、とっさに首を振った。無理だ。

「無理ならいいんだよ。皆殺しするだけだから。クライスだって会ったこともない男が死んだってどうでもいいだろう? ただ、覚えていて欲しいだけなんだ。これからこんな馬鹿げた事をしでかしたら、皆死んでいくってね……」

「駄目だっ……もう、結婚してユーリから逃げようなんて思わないからっ……だから」

「駄目。ただで許してあげれるほど、俺の心広くないよ。クライスが俺以外と結婚しようと考えたの知っただけで、嫉妬でどうにかなってしまいそうだった。ねえ、俺の心を静めてくれないと、自分でも何をするか分からない」

ユーリは俺が隊長の事を好きと知った翌日、勝手に隊長との夜のことを想像して嫉妬して俺を強姦した。
だからユーリのこの言葉は何よりも真実味を持っている。

だけどユーリの男根に触れて、キスをしろなんて無理だ。

「もっと…他の事だったら」

「ふっ……可愛くて純情なクライスは俺に何をしてくれるの? ううん、何が出来るのかな?」

「分からない……」

ユーリが満足できることで、俺が出来ることがあるだろうか。

「俺と結婚してくれる?」

「無理だ」

そんなことをするくらいだったら初めからしている。例えそのせいで他の人間が死んだとしても、俺はそこまで自己犠牲が強くない。

「そう……まあ、そういうと思っていたよ。じゃあ、そうだな……乗ってくれる?」

「え?」

「何時も、俺がクライスに無理強いしているようで悲しいんだ。だから、ね。クライスが俺のを自分から受け入れて、自分で入れて欲しいんだ。俺のをね」

言っていることは分かった。何をしろと言われているのかも。

「簡単だろう? だって、さっきまで俺のを受け入れていたんだから、同じことをするだけだよ。ただ、自分でするか、俺がするかの違いだけ。選択権はあげるから、結婚か、キスか、自分でするかの三択だよ」

「……他の選択肢はないのか?」

「うん」

心底悪気などないかのように笑むユーリは、紳士にプロポーズしてきた男と同一人物なのだろうか。こんなことを強いる男だとは思っていなかった。真面目で、親切で、優しく責任感のある男だと思っていた。俺を抱くまでは。

「分かった……」

さっきまでと同じ事をすれば良いんだろう?
どうせ秘薬を使われたんだ。一回ではどうやっても済まないことは分かりきっている。ユーリの言うように自分でするかユーリにされるかの違いだけだ。

「クライス……本当に可愛いよ。これで俺が無理矢理抱いているなんて、今後言わないでね」

悪魔のような男だ。俺は自分からユーリのものを受け入れながら、睨む事しかできなかった。

******

「クライスのところは週何回くらいなんだ?」

という問いに、問いかけてきたエミリオも夫がしたいだけというのは同様のようだった。
通常夫というものは、妻よりも秀でているほうがなる。純粋に魔力の問題でだ。
だから力で適わないのは当然なのだ。

だが俺達の中で一番非力な存在のエルウィンは、一年以上一回もしていないと堂々と言い張ることができる兵だった。

折にふれ、隊長が一番情けない夫だろうと結論づけられ、エルウィンにはユーリ隊長はクールでカッコいいと何度も言われるが、夜の生活を思い出すと、あそこまで好き勝手でやりたい放題の男は、ユーリくらいだろう。ギルフォード王子だって、キスしろとか自分で乗れなんて言ったりしないのではないだろうか。

俺はユーリにされた破廉恥行為の数々を、エミリオの『夫婦生活』発言で思い出してしまい、やはり最悪な夫NO.1はユーリに違いないと思った。

一番情けないと言われている隊長はやはり素晴らしい男なのではないかと錯覚すらしてしまう。
過去惚れた弱みだけではなく、こうして伸び伸びと夫の悪口を言っているエルウィンを見ると、隊長は無自覚で分かっているのかもしれないとすら思う。

エルウィンは弱い(一般的には強いが、部隊の中では平均で、俺やエミリオと比較したら明らかに弱くなってしまうし、隊長と比較するともはや大人と子どもレベルだ)
その弱いエルウィンは本当だったら、夫に隷属して生きていくしかない。隊長の魔力の強さを考えれば、どんなことでもできただろう。

ただし精神は無事ではいられないだろうし、それこそ生きる人形か、毎日泣き暮らすような生活しかできないだろう。

だから無意識のうちに隊長はエルウィンに譲っているのだ。本当だったら何でも出来るのに。
エルウィンに虐げられているが、これがあの夫婦なりに一番上手くいく方法なのではないかと思う。

それに比べて俺の夫は……平然と精神制御魔法で人をおかしくさせるし、産後、散々破廉恥な行為をさせるし!
母乳プレイだけではなく、結婚前拒否した口での奉仕まで……やっぱり俺の夫が一番最悪だ!!!

俺ってこの中で一番男運がないんだろうな……


END
何かのたびに、ユーリのほうがマシかも。いや、一番駄目な夫だとぐるぐるするクライス様でした。




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