この国で最も魔力の強い男は、初代国王の弟と始祖とするただ一家の公爵であるアンリだと皆が言うだろう。
アンリは金髪に黒い目をしている美男子だ。すでに公爵の地位も父親から譲られており、国王に継ぐ地位を持っているが、いまだ独身で婚約者すらいなかった。

高位の爵位を持つ貴族たちがこぞって息子を嫁にと差し出そうとするが、そろそろ30を目前にしているというのに、アンリは結婚をしようとする気配すらなかった。

「アンリ様っ……駄目ですっ」

昼下がりの執務室で、僕は隊長であるアンリ様にほぼ衣服の全てを剥ぎ取られ、体中にキスを受けていた。

第二王子として生まれた僕は、一回り年上の公爵の下で仕事を覚えるべく、第一部隊に配属をされた。王族と言えども、僕は王太子ではない。魔力の高かった僕は騎士となり、将来は軍の仕事を任されるべく公爵であるアンリ隊長の秘書官としてだ。
本当だったら、軍に秘書官と言う仕事はないんだけど、僕用に特別に作られた形だった。
本来なら隊長の補佐は副隊長がするし、雑務なら専属の従僕がすることだ。軍に入ったばかりの僕がいくら王族とはいえ、階級を飛び越えて副隊長になれるわけはない。だからといって、下っ端騎士にするのも王子なのにというのもあり、特別な計らいだった。

「ユアリス、そう嫌がるな。美しい……ほら、もっと足を広げて私に見せてくれ」

「嫌ですっ……こんなことっ」

「どうしてだ? 私が嫌いか?」

アンリ様の憂いを帯びた表情に、無体な事をしているのはアンリ様のほうだというのに、僕が悪いことをしている気分になる。

「違います……けど、結婚前にこんなことは許されませんっ」

そう、婚前交渉は禁止されている。それを王弟である僕と公爵であるアンリ様が破ってはいけない。
もうほとんど守っていない服をかき集めて、職場だというのにぬがされてしまった事を恥じた。いけないと分かっているのに、アンリ様を目の前にすると抵抗できない。
結婚前までは純潔を守りたい。
けれどアンリ様を目にすると、その魅力に逆らう事は難しい。だからこんな恥ずかしい格好をさせられてしまうのだ。

「しかし……私は何度も結婚しようと言ったじゃないか? なのに、結婚をしてくれないのはユアリスのほうだろう? 私は今すぐにでもユアリスと結婚して、抱きたい」

「アンリ様……」

僕もアンリ様と今すぐにでも結婚したかった。逞しい胸に抱きしめられたい。全部アンリ様のものにされたかった。

「私は心配なんだ。ユアリスはこれほど美しくて、しかも王子だ。誰もが欲しがるだろう。私だけの物にしたくて仕方がないんだ」

初めて会った日にアンリ様に求婚された。僕はすぐにでも、はい、と言いたかった。
けれど僕がただの貴族なら、そう答えられただろう。しかし僕は王弟であり、王子だ。
兄の許可なく結婚することはできない。

「私が陛下にユアリスとの結婚の許可を取りに行く。ユアリスは何も心配しなくて良い」

「……今は時期が悪いんです。アンリ様、僕はアンリ様の物です。どうか、もうしばらく待ってください」

兄が結婚した。それ自体はとてもめでたいもののはずだ。
祝福されてしかるべきものだ。
しかしその相手が、誰からも祝福されない相手だった。

王妃となった女性は、そう女性なのだ。ここ数代、というか建国以来女性の王妃はこれまでいなかった。兄が初めて女性の王妃を迎えたのだ。
彼女はある国の王族の女性だったが、兄が隣国でのパーティーに出席した際に出会ったらしい。一目でお互いに恋に落ちて連れてきてしまったらしいが、当然問題が多かった。
まずその女性には婚約者がいたこと。婚約者は隣国ディアルの王であったこと。仮にも一国の王が、他国の王の婚約者を横取りすることなどあってはいけない。そのせいで、かなり揉めたそうだ。
それだけではなく、女性ということは魔力がない。高い魔力を持ってこの国を統治している国王の伴侶が女性では。と言う声がとても多く、あくまでその女性を妻にするということなら、退位をという声まであった。
これが兄が王太子のままだったのなら、兄は廃嫡され僕が立太子することになっただろうが、すでに兄は国王に即位している。退位することは問題も多く、反対の声が多い中無理矢理結婚したのだ。

僕がアンリ様との結婚を言い出せないのは兄の結婚のせいだった。
アンリ様の家は元々王族であり、国で王家につぐ名門だ。本来なら僕がアンリ様と結婚する事に何の反対もないだろ。身分家柄、人柄といい、アンリ様以上の人はこの国にはいない。
しかも全く結婚するそぶりのなかったアンリ様が王弟と結婚すると言い出すのなら、祝福こそされ、反対されるいわれはなかった。

だが、僕がアンリ様とのことを兄に言い出せないのは、王位を狙っていると思われかねない今の状況を危惧したからだった。

幾人もの貴族たちが、兄を廃して僕に王位をという声がかかってきている。勿論僕にはそんな気はなかった。
だが王妃が王子を産んでいない今、そして王子を産んだとしても魔力が低い子が生まれるかもしれない。そんな声がささやかれる中、僕は今下手なことをできないのだ。
もし今アンリ様と結婚したいと言えば、公爵の後ろ盾を得て王位を奪うつもりだと思われかねない。
だからアンリ様にはいと言えない、なのに待っていってくれとしか言えない。

十歳以上年上のアンリが、自分などを欲してくれている。その事実がとても嬉しく、できればアンリの言うようにすぐにでも結婚したかった。いくら自分が王子とはいえ、アンリならば誰とでも結婚できるのだ。
誰にもアンリを渡したくはなかった。



隊長とユーリたんのパパとママのお話です。
リクがあったので、頑張ってみました。期待にそえるようなヤンデレ夫婦書けるかな・・・



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