「お母様、今日はお話とは?」

私はリエラ国王、あらため義母である方を目の前に話していた。
確かに、孫の顔を見に来てはいいと言ってあったが、こう毎週のように来られては……はじめた来たとき、魔道具を置いていかれ、それはそれはもう市場に出したら高価な道具であり、移転魔法で簡単に来れるようになってしまったのだ。

まあ、本来なら嫁に行ったらギルフォードのように毎日義母と顔を合わすことになるので、週1回くらいは我慢しないといけないと思っている。

可愛い一人息子(ウィルとの間には)が外国に行ってしまったのだ。

「あのね……ギルバードを次の国王に頂戴って言っていたよね」

「ええ……まあ、本人しだいですが」

とはいえ、絶対にリエラにはやりたくはないが。長男ということは元より、国王になんかなったら苦労するだろうと思う親心だ。
ただギルバードが野心家であり、国王になりたいと言うのなら邪魔はしたくはない。
しかし、そのためのスペアを作成をすることについては、遠慮したいというのが本心だ。

「あのね……僕からお願いしておいて何なんだけど、ギルバードに王位はいかないかもしれないんだ」

「それは願ったり適ったりですが……ギルフォードの兄に王位を譲る事になったんですか?」

ギルバードが王位を告げる様になるまでまだ0歳だから、20年近く必要になる。そう考えればいくら魔力が低いとはいえ、ギルフォードの兄たちのいずれかに王位を譲るほうが現実的だろう。

「ううん……違うの。あのね、僕も恥ずかしいんだけど……ギルがお兄ちゃんになるの」

ギルフォードが兄に?

「は?……お母様。まさか、妊娠されているとか?」

私の事以外で動じることのないギルフォードが流石に動揺していた。リエラ国王はいくつだったっけ?

「うん……僕もまさかこの年でなんて思わなかったけど。ギルを産んだ後5年はできなかったし、即位してからはできないように気をつけていたし……42歳になったから妊娠なんかしないだろうって、油断していたのかなあ。この国に来て孫に会うまでの旅で出来たみたいなんだ」

ああ、旅先で盛り上がっちゃったんですね……

「少し複雑な気分ですが、お祝いします。孫よりも年下の息子ということになりますけど、年齢的に大丈夫なんですか?」

「うん、高齢出産だから勿論注意は必要だけど、宮廷医がつきっきりで見てくれているし。肉体年齢は魔力のせいか年齢よりもずっと若いって言われたから」

まあ、顔は若いよな……ギルフォードの兄にしか見えないし。苦労していないから……

いや、苦労はしてきたのか? これでも。
国王となれば重圧は凄いだろうし、凡庸な王だが、愚王ではないし。家臣に恵まれて堅実な王として君臨している。それなりに努力はしているのだろう。

「勿論、お腹の子の父親はウィルですよね?」

「当たり前だよ! 僕はウィルと恋人になってから、ウィル以外と寝ていないんだから!」

心外な事を言われたとばかりに、悲しそうな顔になる。また私は義理の母親を虐めているのか?

「いや、勿論分かっていますが。身重の身体なのに、今日はウィルは一緒にいないのが不思議で」

「ウィルはね。僕が出産するのについていてくれるつもりだから! あとね、そろそろ将軍の地位を他の人に任せて、子育てをしたいって言うんだ、ウィルは。ギルには寂しい思いをさせたからって。だから仕事の引継ぎとかで忙しいんだ。あ、でも……ギル気を悪くしないでね……今度の子が特別っていう訳じゃなくって、ウィルもギルとずっと一緒にいたかったんだよ。でも、あの頃はそうはできなくて」

「分かっていますよ。僕もいい年なんですし、そんなことですねたりしないので安心してください。僕はもう父親なんですよ? それに僕も分かっています。あの頃はお父様もお母様も必死で体制を見直しする中で、それでもできるだけ僕と一緒にいてくれましたよ」

まあ、そうだろうな。今と昔とは権力の握り具合も違っただろうし、色々な風習や体制が蔓延していて、今ほど自由にできなかっただろう。

「ありがとう、ギル。ギルは本当にいい子だね」

「でも、その子の扱いってどうなるんですか?」

「あのね……やっとリエラでも一夫一妻制に移行できたんだよ! で、僕ねウィルと結婚する事になったんだ!」

孫までいてようやく結婚ですか。いや、揶揄るんじゃなくって本当にめでたいことだと思う。ここまで制度を変えるのに相当苦労してきただろう。改革には時間がかかる物だし、抵抗もかなりあっただろう。それでも20年近くをかけてやり遂げたんだ。立派だと思う。

「おめでとうございます。やっとお父様も自分の子だと言えるようになりますね」

「うん……だから、もしギルがウィルの子だと言いたければ、ちゃんと公表しても良いんだけど」

「いえ、その必要はないでしょう。それだと出奔していたことまでばれるといけませんし、いらぬ論争の種になりかねません。それに僕はもうリエラを出た身ですから、わざわざ公表することはないでしょう。ここで問題なく親子でいられますし」

相変わらず大人な対応だな、ギルフォードは。なんだかこういうのを見ていると、リエラでの変態っぷりが嘘のようなのだが。

しかしどうなのだろうか。例えギルフォードに弟が出来ても、そうすんなり王位を継承できるのだろうか。

「ギル、ごめんね。ギルばかりに我慢させて……ギルもね、僕がちゃんと育てたかったんだ。ウィルと一緒に……」

「分かっていますよ、だから弟は僕の分まで可愛がってあげてください。僕はエミリオに可愛がってもらうので、大丈夫ですよ」

おい! せっかくの感動のシーンを余計な一言で台無しにするな。
顔だけは母と子と良く似た親子だが、性格はまったく似ていないと思っていたが、ふと見せる天然アホっぷりは良く似ているのかもしれない。


「まあ、これでギルバードが国王にって話はなくなるね」

客人を見送って、ギルバードをその手に抱きながら、ギルフォードはそう話しかけてきた。

「良かったじゃないか? まあ、そう上手くいくとも限らないかもしれないがな。お前の弟が魔力持ちとは限らないし」

ギルフォードのように特異体質の可能性もある。だいたい末弟が王位を継ぐのはどうなのだろうか。まだ生まれてもいない子に期待するのもおかしいし、ギルフォードのような変態で常識はずれの行動を取る子だったら、王位には目もくれず逃亡する可能性も大きいだろう。

「まあそうだね。ただお母様たちも王位を継ぐ子が生まれると言うよりは純粋に子どもができたことを喜んでいるみたいだし。まあ、リエラのことはリエラのほうでなんとかするだろうから、エミリオが心配をしなくても大丈夫だよ」

ただちょっと残念だよね、という言葉が残った。

「残念って何でだ? 王位に興味はないはずだろう?」

息子を王位につけたいという欲望があればいさぎよくリエラを出奔などしないはずだ。
なのに、ギルフォードは金も領地も地位もすべて捨ててきた。
ただギルフォードは本気だったようだが、リエラ国王はやはり可愛い息子なのだろう。領地も没収せず、地位も王子のままで据え置いてあるそうだ。なので、ギルフォードは私の家の領地経営に加えてリエラの自治領の経営もあり、かなり忙しいのだ。

「だって、国王にって望まれたり、王妃にって望まれていたら、その分余計に子どもをつくろうって考えてくれるかな、って思っていたのに……」

「アホか。確かに跡継ぎは必要だが、そんな理由で生まれる子どもが可哀想だろ。生まれる子に、お前はスペアのつもりで作ったんだなんて言えるか? 私は言いたくないし、お前もいやだろう? そういうしがらみの中で生きてきたんだから」

なんか最近、お茶会でももっと子どもが必要だろうとか、ギルフォードからも義務のようにもっと子どもを作るべきと言われて辟易しているのだが。

エルウィンは王太子妃だし、それも国益だろうから必要だろう。クライスも国一番の名家として国の防衛線としても魔力の高い男子を産む義務がある。だが、私の家はそこまで必要ないだろうと思うし、あの二人を見ると成り行きや無理強いで孕んだ子ばかりで、自分はそうしたくないという思いがある。

「そうだけど!……でも、僕はもっとエミリオとの子どもが欲しい」

「そうか? お前は私と結婚するために無理矢理ギルバードを作ったし、今だってスペアが必要だって騒いでいるじゃないか」

「違うよ! 僕は正直そんな物どうでも良い! この家の跡継ぎだってエミリオの立場上必要だろうから、と思っているだけで、実際この家が途切れたってなんとも思わない。エミリオが大事にしているから僕もそうしたいだけ……僕はエミリオを愛しているからエミリオの赤ちゃんが欲しいし、できればエミリオも純粋に僕の子どもが欲しいからと思って妊娠して欲しい」

こいつは二重人格なのだろうか。真面目に話しているときと、ベッドの中の変態っぷりが正反対すぎる。

「ギルバードが一人いるだけじゃ駄目なのか?」

「ギルバードも可愛いよ! でも、もっともっとエミリオに僕の子どもを産んで欲しい」

同じ境遇の妻たちは、ユーリの場合は狡猾に絡めとるようにクライスを独占し、隊長の場合は泣き落としと卑怯な馬鹿馬鹿しい作戦でエルウィンを陥落しようとし、そしてギルフォードの場合は、まっすぐな気持ちだけで押し通そうとする。

意地を張って暗黒夫婦生活をすることもできるだろう。しかし何十年とギルフォードと過ごす事になる。毎日暗黒生活をするのは非常に疲れると思うし、そんな一生も辛いと思う。

だから私は結構、ギルフォードに甘いのだと思う。

「分かった、考えておく……だがギルバードも赤ちゃんだし、まだしばらくは無理だ」

「うん、嬉しいよ! 考えておいてくれるだけでも! 僕、エミリオがとっても優しくしてくれて幸せだよ?」


私は別にギルフォードに格別優しくしているつもりはないんだが……

しかし友人たちに言わせると、年下の夫に甘い! らしい。

END


エミリオたんはギルたんに甘いw
パパとウィルは22年かかってハッピーエンドになりました。



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