俺が第二子を出産後、半年経ってエルウィンとエミリオのところに子どもが生まれた。同日の生まれという事もあり、三ヶ月後の今日全員集まって、三人の赤ちゃんのお披露目となった。

エルウィンの第二子はサラ王子。
エミリオのところの第一子はギルバード。
俺の次男はジュリス。
当然全員男だ。

エルウィンは公爵家で産んだので、当然見た事はあったが、エミリオのところは初めてだ。

「ギルバードはギルフォード王子に良く似ているな」

母親の血が入っていないかのように王子にそっくりだった。別にいけないわけじゃない。凄く可愛い子だ。

「そういうクライスのところもユーリにそっくりだな」

「まあ……今回はユーリの血が濃かったみたいだな」

「エルウィンのところも父方のほうの血が濃いし。今回は皆父方の血が勝ったみたいだな」

「はい。でも、サラはルカみたいに隊長そっくりではなくて、公爵夫人に良く似てますから。まだ良かったと思います」

サラ王子は隊長方の血とは言っても、隊長の母君である公爵夫人によく似た子だった。公爵夫人は俺とエルウィンの義理の母であるが、それはもう美しい方だ。あの義父上が血迷って一国を破壊してでも奪おうと思っただけの方ではある。

「クライス様にジュリスが似ていれば、ルカのお嫁さんにもらえたのに……やっぱりユーリ隊長に似ちゃったか」

エルウィンはルカの婚約者を今から探していて、ジュリスが俺に似ていたらお嫁に欲しいと言っていたが、残念ながらユーリにそっくりに生まれてしまった。
俺も隊長似のルカとユーリ似のジュリスが結婚は……ちょっと。だって将来あの兄弟が結婚しているようにしか見えないなんて。不気味なので遠慮したい。

「やはりエミリオのところから貰うほうが良いんじゃないか? どっちに似てもルカの王妃に相応しいと思うな」

「止めてくれ……ギルバードはただでさえリエラの国王にって狙われているんだぞ? この上王妃にまで狙われたらうちの家が断絶してしまう」

「もっと作れば良いじゃないか。一人っ子だと可哀想だろう。俺とエルウィンだって、頑張って二人産んだんだぞ? エミリオも二人くらい頑張れよ」

俺も絶対にユーリの子など産むつもりもなかったのに、いつの間にか二人も産んでしまっている。妊娠するまえはもう二度とユーリの子どもは産みたくないと思うのだが、産んでみるとやはり可愛い。アンジェもジュリスも宝物だ。

「それはクライスは良いだろうな。この中で唯一円満で相思相愛で結婚したんだから、いくらでもユーリの子どもを産みたいだろう。だが私は違う……ギルフォードは部屋の片隅に置くくらいの気持ちで婿に入れたんだ。二人目はいらない」

エミリオも大変らしい。夫のギルフォードの祖国から熱烈なラブコールがあり、ギルバードを狙われているようだ。まあ、一目見れば欲しくなるかもしれない。とても愛らしい赤ん坊というのに加え、恐ろしいくらいの魔力を秘めているのが分かる。だが心配しなくても、そんな才能の塊のギルバードを外国にやるほどわが国は馬鹿ではないだろうから、ギルバードはリエラの国王になることはないだろう。

「俺ももう二人で打ち止めで良いんだが……」

「嘘言うなよ。あんなにユーリは素敵だの、愛しているとか、もっと子どもが欲しいとか、昨晩は情熱的すぎたとか散々ノロケ言っていたくせに」

俺はつい最近までユーリの精神制御魔法の支配下にいた。
アンジェの時は産後三ヶ月ほどで正気に戻ったのに、今回は正気に戻るまでに七ヶ月もかかっていた。妊娠の時も同様だったので、やはり一度目よりも二度目のほうがかかりやすいのだろう。三度目、四度目の妊娠などになったら、一生正気に戻らないかもしれない。戦々恐々としてしまうので、やはり俺は三人目はないと思っている。

エルウィンはこの状態を知っているが、エミリオは知らない。一緒に軍にいた友人にユーリとの事情を話すのも恥ずかしい。俺は正気ではない間、それはもうユーリに惚れ切っているようにしか見えていないそうなのだ。しかも自分でもそれをおぼえている始末なので、恥ずかしくて仕方がない。
記憶が無くなっているわけではないので、自分が何を言ったのか、何をしたかきちんと覚えている。

ユーリのこと以外は正常なので、誰にも暗示をかけられているとは思われてはいない。だから誰も不審には思わないし、エルウィンのところのように不仲で有名なわけでもないので、俺がユーリを愛していると言っていてもおかしくはない。
けど正気に戻るといたたまれない思いで一杯になる。

エミリオやエルウィンに惚気た言葉などどうでも良いほどに。


『あっ、はっ……ユーリ』

『クライス、可愛いよ。本当に俺よりも年上に見えないし、二児の母親にも見えない』

だから不安にもなると言って、俺を貫いたまま激しく揺さぶろうとしていた。

『やめろっ……ユーリっ。人が正気じゃない間、よくも好き放題してくれたなっ!』

俺は最悪なことにユーリと抱き合っている最中に正気を取り戻した。つい先ほどまで、ユーリに抱かれて幸せそうにしていた俺を覚えているだけに、睨む目線が余計に強くなる。

『そろそろかな……と思っていたけど、思っていたよりも今回は長かったね。俺のことを愛しているって言ってくれるいってクライスも可愛いけど、俺を睨むクライスも可愛くって、どっちも堪らないほど愛している』

『無茶苦茶やりやがって!』

アンジェを身篭った時は、俺がユーリに洗脳されている間は手を出しては来なかった。そういう約束で公爵家に住むことになったわけだが、ユーリはその約束を忠実に守っていた。しかし今回はどうだろうか。
妊娠中はもとより、産後も一ヶ月で医者の許可が出るとすぐに手を出してきた。勿論その頃の俺は拒否をするはずもなく、破廉恥なプレイまでさせられたのだ。
子どもにあげるべき母乳を……この変態はっ!
見た目は紳士で、エルウィンにもユーリ隊長はカッコいいですよね、クールでと言われる男だが、コイツはジュリスにあげるべき母乳をっ!

『でも、クライスは感じていたよね? 今もね……ふふ……花嫁殺しの秘薬なんか必要ないくらいに』

『ジュリス、残念だけど俺に似ていたから。クライスにそっくりな子が生まれるまで頑張ろうね』

にっこりと俺の上で微笑んだ夫の顔は、悪魔のようにしか思えなかった。


「俺がユーリのことを素敵だとか言っていたのは……マタニティーブルーだったんだ。正直、俺がユーリのことを思う気持ちは、エミリオがギルフォード王子に対する思いとそうは変わらない」

ユーリってギルフォード王子や隊長と比べてどうなのだろうか。話を聞くと、まだユーリのほうがマシかもと思う瞬間があっても、実際にああやって精神暗示をかけられていると、王子も隊長もこんな卑怯な真似を平然としないよな……とか、ユーリの精神構造って一体どうなっているんだろうかと、落ち込む瞬間もある。

じゃあ、王子や隊長と交換しようと言われても……どっちもどっちというか、変態の背比べな気がして、気乗りもしない。

「ユーリと喧嘩でもしたのか?」

「そうじゃないんですよ、エミリオ分隊長。酷い話なんですが、ユーリ隊長は精神制御魔法で妊娠産後時期にクライス副隊長を操っているんですよ」

「……はあ? でもそれって……ばれたら、処刑のはずだが」

ばれたら確かに処刑レベルの禁忌魔法なのだが。だけど、国王陛下も身内だし、甘い処分しかないだろうし、ユーリを処刑までしたいかといったら、そこまでする必要もないだろうと思ってしまう。アンジェやジュリスを父親のいない子にするのも可哀想だ。

「いやもう、俺のことはいいんだ。突っ込まないでくれ……」

「おかあさま、おやつがたべたい」

「アンジェ、ルカ。起きたのか?」

三人は赤ん坊だが、ルカとアンジェは年長組みでお昼寝をしていたのだが、どうやら起きたようだ。
アンジェがルカと手を繋いで隣室から出てきた。

おやつが欲しいと言うので、お茶会に出ていたミニケーキとサンドウィッチを用意した。

「アンジェはどっちかっていうとクライス似だな。ユーリの面影も若干あるが、最近クライスのほうに似てきたような気がするな」

「ああ、どっちかっていうと俺に似ているかな? ユーリもそう言っている」

生まれた時は半々と言った感じだったが、段々俺に似てきているように思える。ただそっくりという訳でもないので、ユーリは俺にそっくりの子ができるまで頑張ると言っていたが……

「ねえ、ルカ。ルカは、アンジェの弟のジュリスか、ギルバードどっちと結婚したい?」

「けっこん? およめさん? ママみたいな?」

「そう、ルカのお嫁さん。どっちの赤ちゃんが良い?」

まだ諦めていなかったのかエルウィン。ギルバードは難しいと思うが……ジュリスだってユーリに似すぎて嫌だって言っていたじゃないか。

「ぼくは、アンジェくんをおよめさんにしたい!」

それを聞いてしまった時、空気が凍った気がした。

「ルカ、アンジェくんはお嫁さんに貰えないんだよ。ジュリスだったら良いって(嫌だけど)ジュリスかギルバードにしよう?」

「いやなの! ぼくはアンジェくんとけっこんする!」

当人のアンジェはキョトンとしていたが、アンジェは公爵家の跡取りで、いくら王妃とはいえでも嫁に出すのは難しい。
うちの国では原則、長子相続だ。とくに相続人に問題がない限り、長男が家を継ぐ。
だから隊長が王家を継ぐのに第一継承権をもっていて、ユーリが二番目なのだ。長男を嫁に出す家などない。

それを分かっているから、エルウィンも困っているのだ。

「まあまあ子どもの言う事だろうから、そんなに困る事もないだろう? そのうち忘れるだろうし」

2歳と3歳の子供同士のことをそんなに気にすることもないだろう。

「だって、ルカは可愛いけど、あの隊長の子どもですよ!!! 今から諦めさせておかないと、将来どんな事を仕出かすか分かりません!!! だから今から婚約者を決めておこうと思ったのに……やぶへびだった」

どうしても王妃にというのなら、次男もいるので考えないわけではないが。

「もし結婚できても子どもができないだろうから。王妃としてはアンジェは失格だろうな……結婚は許可されないだろう」

「そうだな……従兄弟なだけあって魔力がお互い高すぎる。しかもほぼ同じくらいの魔力だろうから、子どもを儲ける事は無理だろう」

「そうなんですよね……この国で結婚できない数少ないカップリングなんですよね……」

アンジェとルカは一歳違いだが(正確には一歳と2ヶ月)同じ城で育ったせいか、とても仲が良い。アンジェはルカを甲斐甲斐しく可愛がってお兄さんのようだったし、ルカもとてもアンジェに懐いていた。

それが仇になったのだろうか。

「ルカ、可哀想だけど今から言っておくよ。アンジェくんとは結婚できないんだ。今から諦めておこうね」

「いやっ! ママきらい! パパはいいっていってくれるもん!」

「それはパパは……」

隊長は子どもに甘いし、何故かルカは隊長を尊敬しているようだし、パパっ子なのだ。

「まあ……そう気にするな。なるようにしかならない」

「そうですね……なるべく会わせないようにするとか」

「従兄弟同士だし、将来の公爵と国王だぞ。不仲にしてどうするんだ。幸い、アンジェはルカのことをただの弟としか思っていないんだ。どうにもなりようがない」


お茶会は終わったが、エルウィンはずっと憂鬱そうだった。

ユーリにルカがアンジェと結婚したがっていると話したら、笑っていたが。

「まあエルウィンが憂鬱になるのも分からなくはないな。俺の一族は好きになったらずっと一途だから。もし兄さんがその話を聞いたら、ルカがずっと独身だった時のことを考えて三人目を、と言い出すのを心配していたんだろう」

確かに、隊長ならそう言い出だしかねない。

「だからね……俺たちも、もしアンジェがルカに邪魔されて結婚できなかった時のことを考えて、やっぱりまだまだ子どもは必要だよ? ね、クライス」

「貴様……やっぱり隊長と兄弟だな……」

思考回路は似ていないように思えて、やっぱりそっくりだ!

なんて残念な兄弟なんだろう、と、この夜も結局笑顔で魔法攻撃をくらいながら俺を押し倒すユーリを見て、そう思った。


*
お茶会第2回目。
結局、どの子どもたちが結婚するのでしょうかww
ユーリたんは安定のユーリたんでした。



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