*時系列では、パパ編の前でまだ三人とも妊娠中です。
ミスティックハートの一ヶ月くらい後の話です。


この日は王太子妃が主催の『お茶会』が開催されていた。

とはいえ、盛大なものではなく、妊婦三人でのささやかなお茶会だった。

参加者は俺とクライス様にエミリオ分隊長だ。俺とエミリオ分隊長は、予定日が一緒らしく、それを聞いたときの俺の罪悪感はMAXになっていた。
元々エミリオ分隊長がこんな目にあったのは俺の夫である隊長の変な作戦のせいであり、純粋なる犠牲者だった。
俺は仕方がない。あんな変な夫だが夫だ。その男に騙されて二人目を妊娠してしまったことは、あんなのを夫にしてしまった俺のせいだ。でもエミリオ分隊長は……俺がハネムーンに行っている間にも、あんなことやこんなことをされまくって、できちゃったんだろう。
少なくても俺が分隊長の救出のことを思い出していたら、妊娠まではしなくても済んだかもしれない。

「そう気に病むな」

分隊長はそう言ってくれるけど。

「お前の責任じゃない。私もあんな男に目をつけられたのが原因だ。隊長の巻き添えじゃなくても、そのうち同じような目にあっていただろう」

その捕獲はもう少し後になるはずだったかもしれない。確かにギルフォード王子は粘着質で、何があっても分隊長を諦めなかっただろうことは、俺も理解している。
誘拐犯としての印象が大きいが、実際は有能な大使であり、武人であり、領主でもあった王子は婿に入って、エミリオ分隊長のために尽くしている。
俺だったら王族だというのに、他国に婿入りなんて勇気がなくて出来ない。リエラにいれば不自由なかっただろうに、愛のために全部捨ててきた凄い人だ。分隊長には可哀想だけど、凄くいい夫なんじゃないだろうか。でも相当変態みたいだし、隊長と比べたらどっちが良いとは比べられない。

「第一部隊中に、ギルフォードの悪名が轟いているし……あんなのが婿だと思われていると、恥ずかしくて復帰できない」

それは隊長も同様です……分隊長と温泉に行っている間にも起こした夫二人の騒動。第一部隊とユーリ隊長が抑えてくれたが、第一部隊以外には二人の悪名は知れ渡っていないが、それでも1,000人が知っている。けど、その1,000人もまともな人間はいないのだと最近気がついたけど。

「大丈夫ですよ……俺の隊長ほどではないでしょうし。それに、上層部は皆あんなだったみたいですし……」

皆あんなとは、エミリオ分隊長以外の、分隊長たちだ。エミリオ分隊長は10人のまとめ役の筆頭分隊長をしている。他の分隊長たちがあんなアホな作戦を考えて実行していたのだ。
まともな人間の上層部は、エミリオ分隊長とクライス様くらいのような気が最近してきた。

「そうだ、エミリオはあんな隊長と結婚しなくて良かったと思わなければいけない。まだきっとギルフォード王子のほうがマシだ」

そう口を開いたのはクライス様だった。確かにこの中の夫の中で一番駄目人間は隊長だと思う。それは否定できない。例え、どの夫も少しどころかかなり難がある物件だったけれど。

事実は事実なんだけど、クライス様の夫のユーリ隊長だって、かなりアレな物件なのに。

「そういえば、ここにいる誰もが隊長の妻になっていたかもしれない立場だったんだな……」

分隊長は隊長の親戚で、次男で魔力も高いということで、頼まれて婚約者候補になっていたらしい。
クライス様もその美貌と魔力の高さと身分を兼ね備えているということで、密かに結婚してくれたら良いなあくらいの気持ちで、公爵が副官として人事に手を加えたらしい。
この中で一番味噌っかすなのって俺なんだけど、でもこんな俺でも公爵様は歓迎してくれている。あの頑なに結婚しなかった隊長が結婚してくれただけで非常にありがたいらしい。
夫には恵まれなかったけど、親戚とか義両親とかには恵まれたとは思う。

「そう思うと、俺のユーリは素晴らしい夫だと思う。隊長やギルフォード王子には比べ物にならない」

「そんなに熱愛しているんだな……クライスがそんなに恋愛向きな男だとは思っていなかったが」

クライス様とエミリオ分隊長は同期で友人でもあるそうだ。 

俺←→クライス様(義兄弟)
俺←→エミリオ分隊長(最近固い絆で結ばれた兼親戚にもなった)
クライス様←→エミリオ分隊長(元々友人兼親戚にもなった)

こういう関係だったが、最近3人でも仲良くなった。しかし流石のクライス様も未婚の分隊長に余り赤裸々なことも言えなかった様で、分隊長はクライス様とユーリ隊長の結婚を相思相愛でしたものだと思い込んでいる。

「ユーリは優しくて、情熱的で、格好良くて、それで」

ノロケが続いてエミリオ分隊長はゲンナリしていたが、それも今だけだろう。もうすぐ出産を控えているクライス様は、まあしばらくはこうかもしれないがそのうち正気になる。
その時真実を知ったらどう思うのだろう。

この状態のクライス様も普段とギャップがあって面白いけど、俺の夫がそんなにこの中では一番駄目なのだろうか。いや、自分でも駄目な夫なのは分かっている。でも最低の夫達が集まる中でブッチギリの一位は流石に嫌だ。

「この国に隊長よりも駄目な夫っていないんですか?」

この国の人間は一途で浮気なんて考える人間はいない。だから駄目出しが出るとしたら、人間性や経済力だろう。

「まあまあ……私のところのギルフォードだとてまともな人間ではないし。隊長のいいところを考えてみたらどうだろうか?……それに私たちの先祖なんか、隊長やギルフォードでも鼻で笑うような非道な真似をして平然としてきたんだぞ? そう思えば隊長だって……」

良い所あるかもしれない、と言いたそうだったが途中で分隊長の言葉は途切れた。
少しもいいところが見出せなかったのだろう。それはそうだ。何故か隊長はエミリオ分隊長の事を間男だと思い込んで敵視しているのだ。

「ええっと……公爵よりはマシかもしれないし」

「は? 何でお義父様と比べるんですか? あんなに良い方なのに」

「あんな温和そうに見えて、まだ結婚していなかった公爵夫人、当時王弟だった方を手に入れるために、一国を壊滅状態に仕掛けたそうだ。私の父は公爵の従兄弟だが、一緒に現場にいて血の気が引いたといっていたな」

「いえ、それだったら隊長だってこの前、首都を壊滅させる寸前だったじゃないですか。本当にとんでもない一族だな。大丈夫かな……この子」

俺はお腹の中の子どもの将来を憂いだ。
長男のルカはまだ一歳なのでどういう大人になるかは分からないが、魔力は隊長に似てとても高い。育て方さえ間違わなければ良い国王になってくれるだろう。

お嫁さんを今から決めて置いてあげたほうが良いのかな。
なんか隊長も隊長のお父さんもユーリ隊長もエミリオ分隊長も、この一族婚約者がいなかったせいで、こんなことになっていたんじゃないのだろうか?

初めからいれば、こんなものかと思って結婚してくれるんじゃないだろうか。そうすれば誰の迷惑にもならないし、普通のまま生きていけるんじゃないだろうか。

「エミリオ分隊長! そのお腹の子、ルカのお嫁さんにくれませんか?」

「は?……いや、光栄な申し出だが、この子はうちの跡継ぎだし……」

「では次の子で!」

「……次の子は作りたくないのだが」

「あっ……そうですよね、すいません。俺ももう子作りは勘弁だと思っているので」

うちはもう二人もいれば良いだろう。王子二人いれば文句は言われないと思う。国王陛下は3人くらい欲しいなあ、みたいなこと言っていたけど。

「クライスのところに頼めば良いだろう。今度生まれる子は次男だし、嫁に出しても問題ないだろ?」

「まあ、ルカになら良いだろう。まだまだ子どもを作るつもりだしな」

「え? まだ作るんですか?」

「ユーリがたくさん欲しいっていうから」

だろうね。ユーリ隊長子作り好きだろうし、妊娠産後はラブラブだから、作れるだけ作りたいのだろう。
しかし正直……エミリオ分隊長とギルフォード王子の息子ならどっちに似ても嫁に貰いたいけど、ルカは隊長似でクライス様の次男もユーリ隊長似だったら……その二人が結婚するのはちょっとシュールで遠慮したいところです。

「ええっと……せっかくの申し出なんですが、ユーリ隊長に似ちゃったらお嫁さんには欲しくないような……やっぱりエミリオ分隊長のところが良いかなあ」

「駄目だ!!! 私とエルウィンとの愛の結晶と、間男の貴様の子など結婚などさせるか!!!」

「……隊長」

「貴様はエルウィンに懸想していて、この世では結ばれないから子どもたちを結婚させて血筋を残そうという魂胆だろうが、そうはいかない! エミリオの子となど結婚させるか!!!」

「……隊長、勘違いの嫉妬もいい加減にして下さい。穏やかにお茶会をしているのに乱入しないで下さい!!! ユーリ隊長もギルフォード王子も誰も邪魔しなのに、隊長だけ邪魔にしにくるなんて、本当に!!!恥ずかしい勘違い夫ですね!!!!!」

「まあまあ……隊長が泣いているだろ、それくらいにしておけ」
「そうだぞ……隊長は王太子なんだから、何をやっても許される……かもしれないんだから、そんなに怒るな。お腹の子に悪い」
「皆さん、自分の夫がこんなんじゃないから、他人事のように言って!!! 俺に隊長を押し付けれて良かったと思っているくせに!!!」

クライス様とエミリオ様は内心ギクリとしたことは、顔に出さないようにしていたが、俺には分かった。


その後、各家の夜の会話。


「……今日、公爵家でお茶会が開かれたんだが、知っていたか?」

「勿論、エミリオのすることなら何でも知っているよ?」

「……お前は私の行動を見張ったりはしないのか?」

「そんな、エミリオを信用しないことしないよ!!……隊長みたいなことすると、エミリオが恥ずかしいからね。僕、エミリオの夫としてエミリオに恥をかかすようなことはしたくないよ」

「そうか……」(ちょっとギルフォードのほうがマシだったかもしれないと、安心している)


「隊長はまたエルウィンに虐められて泣いていたんだ……でも、隊長のほうが悪いよな。見張っていて、エルウィンに恥をかかすから」

「そうだね、兄さんはTPOを弁えないからね」

「ユーリはそんなことしないからな。俺ユーリが夫で良かった」

「俺もだよ。安心して、クライスの安全のために俺は何時も魔法で見ていてあげているからね」



「今日ほど隊長が夫で恥ずかしかったことはないです! 俺の大事な友人になってくれたエミリオ分隊長に悪態をついて!!! クライス様にも恥ずかしいところを見せて!!! 離婚できるんだったらすぐにでも離婚したいですよ!!」

「わ、私は夫としてエルウィンを心配してっ」

「貴方は王太子でもうすぐ国王になるんですよ! こんな恥ずかしい事を平然としているようでは、到底円満な夫婦なんか無理です!! 当然夜の生活もなしですね」

「何をしたって、私とエッチする気はないのだろう!?」

「当然です、あんな変な作戦で俺と分隊長を騙したんですから」


隊長のお陰で一組の夫婦が若干円満になったのと、ラブラブ夫婦なのが一組、そして今日も険悪な夫婦の三組があった。



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