「エミリオ、ただいま! ギルバードはいい子でネンネしているのかなあ……って、何でお父様たちがいらっしゃるんですか?」
お前の両親たちが、孫をくれと煩いんだが……と言いかけたが、ギルフォードはリエラ国王を父親だと思っていて、母親だということは知らないのだった。一応言わないほうがいいんだろう……か?
「……リエラ国王がギルバードを跡継ぎにと煩いんだ。お前も何とか言ってくれ。そもそもの原因は貴様が父親を騙して、無視していたことだぞ?」
いくら私と結婚したかったからと言って、息子を愛する父親(母親)を騙して、リエラを飛び出てくるなんて、このちょっと頭のどこかが可哀想なリエラ国王といえとも可哀想じゃないか。
「そんな! 知らないよ!……騙されるお父様のほうが馬鹿なんだよ」
まあ、否定は出来ないが。
「貴様の取り得は四男で、後とり問題とは無縁だと思ったいたことだったが……こんな面倒なバッググラウンドがあるんだったら、婿になんか貰うんじゃなかったな」
ギルフォードは私にプロポーズした時から、第四王子だからごく潰しだの、リエラには戻らないから婿になるのに問題ないとか、散々都合のいいことを言っていたよな。
押しかけ婿のような存在だったが、はじめはこれほど面倒な価値がある王子だとは思ってはいなかった。
「どうしてもギルフォードの子どもがよければ、ギルバードではなくギルフォードをリエラに連れ帰って、孫を作成してくれ」
「な、何言ってるの!? エミリオ。離婚なんか出来ないんだよ!!」
「離婚しなくてもこのままでリエラに帰ればいいじゃないか?……遠距離結婚だ」
「いやだよ!僕はエミリオ以外抱きたくないよ!……お父様だって、そういうのが嫌だったから後宮程度を廃止したんでしょ?」
そうか、リエラ国王はハーレムを廃止したのか。ハーレムを持っているという噂は過去の物だったんだろう。今はウィルがいるからな。不自由しないだろうし、彼以外としたくはないんだろう。
リエラ国王のような小物は国王になっては駄目だと思うんだがな。いくら魔力が他の兄弟に比べて秀でていたといって、国王に相応しいかは別だろうに。
リエラ国王は好きな人とささやかな幸せがあればそれで良いと思うような、そんな人間だろう。国王は向いていないな。
「確かに僕も嫌だったけど、それだけじゃないよ! ギルに僕みたいな思いをして欲しくなかったから、ギルは好きな人と結婚して欲しかったから。15歳になったら、ギルも本当だったらたくさんの妻を宛がわれるところだったけど、廃止にしたんだ」
まあ、自分も辛い思いをしたから愛する息子に同じ思いをさせたくないのは分かるけど。
「だが、ギルフォードは成人した時に宛がわれたといっていたと思うが?」
「それは……一気に全部廃止にするのは難しかったから、一応成人の証って言うか……でも、その時ギルも好きな子がいたわけじゃなかったし、別に構わないって言ってくれたし!でもね、あくまでそういうの商売にしている子たちだったから、ギルが好きな子はエミリオが初めてで。だから、早漏だったんだってね……ごめんね」
私が散々リエラで早漏と罵っていたからだろうか。リエラ国王にまでギルフォードが早漏だとばれているのか。
「だから、僕はそんなに早漏ってわけじゃ!…ってお父様! 余計なことばかり言わないで下さい! エミリオが気にするでしょう!!」
「だってウィルも初めは早漏だったから……っ!」
リエラ国王……ギルフォードには内緒にしていたんでしょう……。
「そんなところは遺伝しません!……なんだか最近エミリオにも誤解されていて嫌なんだけど。確かにエミリオ相手だと普段よりも早いけど、けど世間一般では普通だと思う」
「おい……」
今サラッと、遺伝しないとか言っていなかったか。この口ぶり、ギルフォードはリエラ国王とウィルの間に生まれたということを知っているのか?
「ギルフォード、お前……自分の出生の秘密知っているのか?」
「……秘密? 秘密にしていたんですか? ウィルが父親だって」
「そんな……ギル、何時から知っていたの?」
「何時からって……お父様とお母様と一緒に暮らしていたのは5歳までですよ。もう物心ついていたんですから、覚えていますよ。突然王宮に引越しすることになって、お母様のことをお父様って呼べって言われて。けど、お父様が本当はお母様なのは忘れてなんかいませんよ。まあ、ウィルについてはしばらく会えなかったので顔を忘れていましたけど」
おい……もう5歳だったのか。なら普通は覚えているだろ。リエラ国王どこまで純粋なんだ。
「……そういえば、お前確か母親は死んだと言っていなかったか? 人に悪趣味な宝石をつけて犯しただろう?」
監禁生活の間に、全裸のまま宝石だけつけさせられて犯され続けた思い出があるのだが。
「うん……公式には死んだことになっているっていうか……だって、お父様がお母様なんて事情、エミリオには興味なかったでしょ? 話しはじめると長いし」
「興味はなかったことは確かだが」
しかし息子の将来に関係することになるのだったら言うべきだっただろう。ギルフォードもここまでリエラ国王がしつこいとは思っていなかったのかもしれないが。
「だが、貴様が黙っていてせいで、ギルバードが王位継承権に巻き込まれているんだ。お前がどうにかしろ。言っておくが、絶対にギルバードはリエラには渡さない」
「分かっているよ、ごめんねエミリオ。僕もギルバードをリエラに渡すつもりなんかない。ねえ、ウィル、お父様。いいや、お父様とお母様と呼ぶべきかな?」
珍しくギルフォードは真剣な顔をして両親に向き合った。
「僕って結構複雑な生まれだよね。王族として育ったけど、生まれは外国だし、子どもの頃は本当に普通の家庭のように育って」
そうか、ギルバードだけではなくギルフォードも外国の生まれか。やはり、ますます王位を継ぐべきではないと思う。
リエラ国王よりもギルフォードは国王向きだとは思うが。これでもかなり実務能力はあるし、大使として交渉能力も長けているだろう。だがギルフォードには王位継承権はない。
それにどうやら幼少の頃は平民に近い生活をしていたようだし、だから王族でありながら子育てなんかは自分でやりたがるのかもしれない。まあ、その後は寂しい生活だったので、息子は同じ目に合わせたくないのだろう。
「だけど、王宮に戻されてからは違った。魔力がない僕は、皆から散々陰口を叩かれたし……お母様とは昔のように毎日会えないし。そんな時、剣の指南役として現れたウィルが言ってくれたんだ。魔力がなくても剣の腕を磨いて、軍人としてお母様の役に立つようになれって。王族としての暮らしが辛いなら、王族を将来辞めてウィルの家のあとを継げばいいってさ」
ん?
リエラ国王が母親だってことは分かっていたが、ウィルとはずっと会っていなかったわけだろう? 顔も忘れていたと言っていたはずだ。
でも、今のギルフォードは父親だと認識しているわけで。
「ウィル?……どういうこと? ギルと会っていたの?」
「……だって、ギルが王宮で一人寂しそうにしていて、皆から魔力なしだって罵られていて、可哀想だったんだ。初めは父親だって名乗るつもりはなかったんだ。ブレイクに頼んで、何とかギルに会わせてくれないかとお願いしたら、指南役に抜擢してくれて。でもギルの可愛い顔を前にしたら、お父さんだよ!って言ってしまったんだ。そうしたらギルは俺を覚えていてくれていた!」
まあギルフォードの子どもの頃はギルバードと同じく天使だっただろう。その天使がポツンと寂しそうにいたら、父親なら守ってあげたくなるだろう。
「どうして僕に内緒にしていたの? 言ってくれても良かったのに!」
リエラ国王だけ知らなかったのだろう。息子と夫?が仲良く過ごしていたのを。
「僕、ずっとギルに秘密にしていて辛かったのに……」
「それはアークは顔芸ができないから……俺とアークとギルと一緒にいるときに、知っていたら絶対に顔に出していたはずだろ? ほら、アークがギルと一緒に寝ると言って、無理矢理ギルのベッドに入り込んで、護衛の俺も一緒に寝ろとか、何も知らないギルだったらおかしいとか思うだろうけど、お前何も分かっていなかったし。分かっていないから、周りにもばれなかったんだ」
まあ、分かっていたらリエラ国王のことだ。間違いなく顔に出していただろうな。腹芸はできないだろうし。
「だって、僕だけ仲間はずれだったの?」
「仕方がないんですよ。お母様……お母様はおバ、いえ……純粋でいらっしゃるので、知らないのが一番だとお父様も思ったんです」
「そうだよ。皆、アークのことを思ってのことだ」
本当に皆に甘やかされているな。だから苦労が顔にでないんだ。とても42歳のオッサンには見えない。20歳でギルフォードを産んでから時が止まっているのではないだろうか。
家族の和解の素晴らしい時間かもしれなかったが、それを見ている私は非常にイライラした。
皆で甘やかすからこんなにも精神年齢が若いままなんだ。
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