それから僕たちは時間があれば抱き合った。
何時まで続くか分からない、儚い逢瀬を時間を惜しんで作った。
王宮の隠し通路を使って、見つからないように眠ったように見せかけて出かけた。
できるだけこの時間を長引かせるために、僕はできる限りのことをしたつもりだった。

「ウィルっ……もう駄目だよっ」

「もう少し良いだろう?……俺お前を抱くと歯止めが利かないな」

ウィルは僕を情熱的に欲しがってくれるから、僕も拒否し切れない。会えば抱きあう生活なんて、堕落しているかもしれない。
性欲なんてほとんどなかった僕だけど、僕もウィルと抱き合うと歯止めが利かなくなる。
ウィルが欲しがってくれるから、いくらでも上げたくなってしまう。

「もう戻らないとっ……」

さすがにそろそろ王宮に戻らないといけない。眠ってしまいそうだけど、情事で疲れきった身体ではここでウィルと眠りについては、起きられる自信がなかった。
明け方侍女が起こしに来ていなかったら、大騒ぎになりかねない。

「まだ良いだろう?もうしないから、一緒にまだいたい」

僕の掠れた声を労わるように、優しく唇に触れて、背中を撫でてくれる。
こんな時間が何時まで続くのだろうか。いずれウィルだって変に思うだろう。
結婚も出来ない、いい年をした大人が一緒に朝を迎えることも出来ない、名家といっておきながら正確な家名も知らない。いずれその不自然さに気がつくだろう。ううん、もう気がついているのかもしれない。
知っていて黙っていてくれているのかもしれない。僕から正直に話のを待っていてくれるのかもしれない。
でも知られたくないんだ。

「ウィル……僕ね、ウィルのことが本当に大好きだよ?」

「何だよ、突然。知っているよ」

ウィルは笑って僕が何度も大好きと言うのを、聞いてくれている。
俺もアークのことが好きだよと、僕が好きだと同じ回数だけ言ってくれる。

会えば会うだけ、僕はウィルを好きになっていく。どうしようもない。


「おーい、ウィルっ!酒持ってきたぞ!もう寝ているのか?」

裸で抱き合ってピロートークを楽しんでいると、突然聞き覚えのある声の主がドアをドンドンを叩いてきた。
思わずビクリと震えた。

「おい!もう夜中だっていうのに煩いだろ!隣に迷惑だ」

僕がウィルを止めるまもなく、行ってしまった。居留守をして欲しいと言いたかったのにそんな暇もなかった。

「最近付き合いが悪いから、皆で酒を持ち寄ってウィルのところへ行こうぜってことになったんだよ。何だよ、ひょっとして誰かいるのか?」

「おい、こら!勝手に入ってくるなよ」

「お邪魔しまーす……って、アークか!? え? お前らそういう仲になったのか? びっくりだよな?」

悪友たち数人がウィルの静止も聞かず、部屋の中に入ってきてしまった。官舎の部屋などベッドが置いてあるくらいで、つまり進入されればすぐに僕の姿は見えてしまう。
ウィルはズボンを履いただけ、僕は布団で隠しているけれど、全裸だ。
先ほどまで何をしていたか、分からないわけはない。

「とうとうアークで童貞卒業したのか? やるな!」

悪友たちがはやし立てるのを、ウィルは照れくさそうな顔で、分かったなら邪魔をするなと追い返そうとしているが、僕は硬直して何も言えなかった。
悪友たちだけなら、僕もここまで驚愕することはなかっただろう。
仲間たちの中に、僕の部下がいた。僕が王子だと知る、腹心が。
彼も顔色を悪くして、はやしたてる仲間たちとは違って黙って僕を睨んでいた。

「……二人の邪魔になるだろうから、帰ろう」

と言って、仲間を帰してくれた。

「はあ……次に会った時は無茶苦茶言われるだろうな……どうした? 別にあいつらに知られたって構わないだろう? 祝福してくれるさ」

「……駄目だよ、誰にも知られちゃ」

「そうですよ……誰にも知られてはいけなかったんですよ」

先ほど帰ったはずの部下が、ノックもせずにドア開けながらそう言った。

「……とんでもない事をしてくれましたね。アーク様」

「ブレイク、突然戻ってきて何を言い出すんだ? とんでもないこと?……責められるようなことをしたつもりはないし、何故アークだけを責めるんだ。それに何故アークに様をつける?」

ウィルにしてみれば、何が何だか分からない疑問ばかりだろう。普段この部下であるブレイクは、皆の前では砕けた口調で、僕のこともアークと呼ぶ。こんな敬語で様をつけたりはしない。それに二人のことをブレイクが責める訳が分からないのだろう。

「…アーク様。ウィルは何も知らないのですか?」

「……知らない。言っていない。だからウィルは悪くない!!」

「ご自分が悪いと言われたところで、罰を受けるのはウィルになるんですよ。アーク様のご意思など関係はない……分かっていたから、これまでずっとご自分の気持ちを隠していらしたはずでは?」

僕は言い返せなかった。その通りだ。いくら僕がウィルを庇ったところで、関係ない。ウィルが僕に手を出したことが問題視される。

「ウィル、アーク様は」

「言わないで!!!!」

「アーク様は言えないでしょう? 私が後でいくら諭したところで、ご自分からはきっと清算できない。別れを告げることなんかできない……貴方はウィルのことを愛しすぎているから。だからウィルから離れてもらう必要があるんです。ウィルも何も知らないままで、アーク様と離れろと言っても納得しないでしょう……ウィル、アーク様は王子で、次期国王になられる方です。意味が分かりますか? アーク様と関係を続ければ立場が悪くなるのはアーク様だけではなく、ウィル貴方もです。国王陛下になられる方を抱いたことがばれれば、最悪秘密裏に処刑されます。双方のためにも、今日で最後にしていただきたいのです」

ブレイクは僕の懇願も無視して、一気に全部ぶちまけた。

「……アークが王子?」

「そうです……ウィルにかまけている暇があったら、後宮に通っていただいて王子を儲けていただけなければいけない。その邪魔になるウィルは、どうなるか分かるでしょう?」

「……本当なのか? アーク」

ウィルが僕を見る目は何の表情もなかった。怒っているわけでもなく、ただ淡々として見えた。何時もの優しげな目ではない。

「ウィル……」

「隠していたのか? 何も俺に本当のことを言ってくれてはいなかったのか?」

「ごめんね!ごめんね!……ウィル、ごめんね!言えなかった!嫌われたくなかった!……本当の僕を知られたくなかったんだ!」

数え切れないほどの妻がいて、ウィルに言えないほどの男女を抱かされてきた。子どもだっている。そんなこと知られたくなかったんだ。

「ずっと好きでっ!……駄目だって分かっていたのに……っ。ウィルを危険に巻き込んだっ……好きでっ」

「もう良い! もうそれ以上言うな……分かったよ、お前が未来なんてないって言った意味が」

ウィルはもう僕の顔を見てはくれなかった。だから僕には分からなかった。

「帰れ……もうここには来るな。アークの立場も悪くなるんだろう?」

ウィルが怒っていたのか、それとも悲しんでいたのか。
これが最後だから、どんな顔でも良いから見たかった。

ウィル、ウィル大好きだよ。さっき言ったことを忘れないで欲しい。
貴方が僕の最初で最後に愛した人。

「そうです……ここで別れることが二人のためなんです。行きましょう、アーク様」

僕は全部を失った。




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